「薬の材料・・・。“ユキドケグサ”はこの村の近くの小高い丘に生えています。
雪のように白い葉で、それを炒ってすり潰すと解熱剤になるのです」
最後の一枚であるユキドケグサの葉をイアスから受け取り、一行は教会を出る。
「それにしても、原因かもしれない水を飲んじゃったって・・・ジスト・・・」
さすがのアンバーも呆れたのか苦笑いだ。
その隣でピリピリと神経を尖らせているコーネルは、サフィに宥められてなんとか爆発を抑え込んでいる状態である。
「ここまで馬鹿だとは思わなかった・・・
おい、傭兵!! 貴様何故止めなかった?!」
「言う前に、勝手に飲んだんよ。止めるも何もあらへんがな」
先頭を楽しそうに歩くジストの背中に複数のため息がかかる。
村の外の雪道を進んでいくと、小高い丘が見えた。
恐らくイアスが言う丘はこれの事だろう。
ここを上った先に目的のものがあるはずだ。一行は歩を進める。
緩やかな道を辿り、行きついた先。足元には白い葉が雪に紛れて生えていた。
それを摘み取ろうとした矢先、目の前に黒い影が落ちてきた。
「ここで会ったがワンハンドレットイヤーズ?!
テメェら下がりな!!!ここはアタシらがゲッチュー!!!」
真っ黒な大剣を肩に担いだ、白銀髪で神父服を着た人物が立った。
その後ろに1人、2人と現れ、彼らはジスト達を前に不敵に微笑む。
「お、お前達は!!」
ジストは咄嗟に剣を引き抜く。が、
「・・・誰だ?」
「ファアアアック??!!
っざけんな!!アタシらの事ドントノーウ??!!」
口調が滅茶苦茶な神父は思い切り足元の草を踏みつけると、力任せに指を差す。
その先にいたのはサフィだった。
「サファイアをこっちに寄越しな!!
さもなくば、このホワイトなハーブ共をファイアでアッシュにすんぞコラ!!!」
そう言って神父は後ろに立っていた華奢な少女から松明をひったくる。
メラメラと燃える炎が神父の顔を怪しく照らす。
「お、おい!
この草を燃やされたらジストが・・・!」
コーネルが引け腰になりつつ危機を発する。
「あいつら、俺とサフィを追っかけてきてた奴らだ!!
こんなところまでくるなんて・・・!!」
「わ、私・・・!!」
サフィは迷わず一歩踏み出す。
それを咄嗟にアンバーが引っ張った。
「駄目だよサフィ!
あいつら、なんかわかんないけどサフィをどうにかするつもりだ!
ついて行ったら大変な事になるって!!」
「で、でもどうすれば・・・」
「ぶった切る」
メノウが大剣を抜く。その眼は真剣そのものだ。
もっとも、主の愚行を清算するには、たとえ雑草に見える足元の草とて灰にされるわけにはいかないのだ。
彼の戦闘態勢に触発され、アンバーやコーネルも自身の武器を手にした。
目の前で切りかかる体勢になった一行を前に、神父の後ろにいたもう1人の男が気まずそうに耳打ちする。
「姉御、マズいですって!あっしらだけで勝てるわけないっしょ!
向こう5人、こっち3人でっせ?!」
「知るかボケカス!!無駄口タップするタイムあんなら、サファイア以外オールキリングしとけ!!」
「無理っしょ!絶対無理っしょ!!
あっしまだ死にたくないんすけどォ!!」
慌てふためく男の隣、水晶玉を持つ少女はニヤリと笑う。
「妾の占いでは吉と出ている。勝てる!!」
「あ、無理だ。エマの占い当たらないじゃん・・・」
次の瞬間、男の頬を矛先がかすめた。
「レイク!!ボサっとすんな!!」
「もうあっし帰りたいでやんすううう!!!」
大剣を交える神父とメノウ、アンバーの矛先からひたすら逃げる男。
水晶を持った少女が何かを詠唱し始めたのを見たジストは、それを牽制しようと剣を握る。
しかし。
「・・・ん?!」
突然ジストの足元がフラついた。
そして何やら、体の中が燃えるように熱くなり、呼吸が苦しくなる。
振るおうとした剣を地面に刺して咄嗟に体を支えた彼女を見たコーネルとサフィが顔を見合わせる。
「ジストさん・・・?」
「な、なんだ、こ、れは・・・?!
熱く・・・!!」
「くっ。あの小娘の魔法か?!」
「いえ、これは・・・!」
事前にイアスから聞いていた症状だ。
「きっと毒の作用が・・・!!
は、早くユキドケグサを・・・!!」
「・・・あの松明さえなんとかすればいいな?」
コーネルは確かめるようにサフィに尋ねる。
もちろんそうだと頷けば、コーネルは剣を目の前で突き立てて目を閉じる。
「王子、様・・・?」
「傭兵、そこをどけ!!」
神父と剣を交えていたメノウが何事かと振り返ると、ごく至近距離に螺旋状の流れを内に秘める巨大な水球が宙に浮いていた。
瞬時にその場から飛びのくと、巨大な水球が重力のまま弧を描いて落ちてくる。
「オウ・・・」
神父は言葉を失う。
逃げ惑う男と占い師の少女も唖然とする。
バシャ―――ン!!
と大きな音を立てて水球は爆発し、3人は頭から大量の水を被った。
神父が手に持っていた松明が一瞬で消えてしまう。
「お、王子・・・何あれ、すご・・・」
「ぐっ・・・!」
よろめいたコーネルを慌ててアンバーが支える。
「へ―――っくしゅッ!!!」
この極寒の中で水を被った3人はくしゃみと震えで動けなくなる。
「あ、姉御ォ!!だから言ったでしょ!!無理だって!!へっくしゅ!!」
「無理じゃ――!!凍え死ぬ!!引き上げるぞ、レイク!ガーネット!!」
「ファック!!!リメンバーね、・・・ファ――――っくしゅ!!!」
3人は負け惜しみの叫びを残して全速力で丘の向こうへ走り去った。
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