ノックをすると、静かに扉が開いてシスターが顔を覗かせた。

「申し訳ございませぇん、今治療は・・・」

「私はサファイア。イアス様の知り合いの者です」

「まぁ、イアス様の」

桃橙の髪をしたその若いシスターは、糸のように細い目を更に細める。

「そういう事なら、どうぞぉ。
只今イアス様をお呼びいたしますねぇ」

のんびりとした口調でそう言うと、シスターは一行を招き入れて奥の部屋へ消えた。





次に顔を出したシスターは、一行を手招く。案内された先は質素な小部屋だった。
簡素なベッドの上で男性が座っている。

「やぁ、サファイア。久しぶりだ」

「お久しぶりです、イアス兄様」

男性はベッド脇の棚の上から眼鏡をとってかける。
視界がはっきりしたようで、薄茶色の瞳を柔和に細めて微笑む。

「ティファニー。彼女達にお茶を出してやってくれ」

「わかりましたわぁ」

ペコリと頭を下げてから、シスターは厨房へ去った。



傍の椅子やソファに座る事を促す。
各々腰を下ろすが、メノウは気難しそうな顔をした後に小部屋から出て行ってしまった。
どこへ行く、とジストが声を掛けるが、彼は軽く手を上げただけで気にも留めない。

「イアス兄様。この村で一体何が・・・?」

「やっぱりその事だね。
私にも実はよくわからないが、数週間前から、ある病気が村で流行り始めた」

棚に収められていた書類を手に取り、イアスは暗い顔つきになる。

「たった数週間で、村の半数近くがこの謎の病気にかかってしまった。
特にご老人や子供達が患者だね。
高熱でうなされ、呼吸困難になり、やがて死に至る。
・・・もう何人もの人が犠牲になってしまった」

救ってやれなかった無念を噛み締めるように、彼は唇を噛む。

「原因はわからないのか?」

ジストがそう問うと、イアスは頭を抱える。

「わからない。患者に共通点がないんだ。
“この村の住人である”という事以外には・・・」

奇妙だ。
まるで村から湧いて出たかのような話である。

さらに、追い打ちのようにイアスは続ける。

「恥ずかしながら私も不調でね・・・。
軽いとはいえ、私が見てきた患者と同じような症状が出てきつつある。
ずっと熱が引かない上に、時々息苦しくなる・・・。体が中から燃えるような、そんな感じだ」

「イアス兄様まで・・・?!
・・・治療法は? 私が代わりに治療します・・・!」

「調合した薬があったのだが、日々やってくる患者の数に追いつかなくてもうなくなった。
材料があればまた作れるかもしれないが・・・」

「材料は・・・材料はなんなのですか?
私が集めてきます。だから・・・!」

「・・・いいや。危ないからサファイアには行かせられない。
それよりも、早くここを離れた方がいい。君まで病気になってしまったら何にもならないだろう?」

「諦めません!
私の命をかけてでも、村を救います!!」

普段おとなしいサフィが声を張り上げる姿に皆驚く。
ただ、ジストだけはうんうんと頷いていたのだった。

「私も手を貸すぞ、サフィ!」

「俺も俺も!」

「ジストさん、アンバーさん・・・!」

「フン。しょうもない世話焼きときたものだ」

吐き捨てるようにコーネルは言うが、ジストに足を踏まれて悶絶した。

「そうと決まれば早速行動だ!
メノウを呼んでくる!」

撥ねるように立ち上がり、ジストは小走りで部屋を後にした。

病人の目に、久しぶりに生命力ある姿が新鮮に映る。

「ありがとう、サファイア。皆さん・・・」

「待て、俺は別に」

「まぁまぁ、そう言わずにさぁ!
こういうのも、“傭兵”の仕事だったりするんだよ、王子」

ふん、とコーネルは突っぱねた。

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