ひんやりと冷えた海風が髪を撫でる。
暗闇の中でも、彼の橙の髪はよく映えていた。
「コーネル!」
岩場に座る彼に声をかける。
はぁ、とため息が聞こえた気がした。
「1人にさせろと伝えておいたはずだ」
「どうしたのだ?
もう城が恋しいのか?フフフ」
「戯けが」
彼は身軽に岩から下りる。
「よくも面倒な事にしてくれたな、貴様。
あの召喚士がいなかったら全員海の藻屑だったんだぞ」
「まぁまぁ、結果的に助かったのだから良いではないか!」
「貴様は何も考えなさすぎだ!!
どこの馬鹿が海の上で風を起こすか!!」
「調子に乗った事は認めよう」
ヒョイ、と近場の岩に座り、彼を隣に招く。
仕方なさそうに彼はそこへ腰を下ろした。
「あの2人組はお前の知り合いだったのか?」
「男の方は以前戦った事がある。
もっとも、私ではなくメノウが、だがな」
「またあの傭兵の話か」
チッ、と舌打ちが漏れる。
「・・・そう気に病むな。私も最初は君と同じだった」
コーネルは黙り込む。
「やはり、私達がいつも行う稽古と実戦は違うのだな。
振るえば人1人の命が左右されるのだから」
「・・・フン。何の話だ」
「抜けなかったんだろう?
・・・その剣を」
腕を組むコーネルは目を逸らす。
「私達は温い幻想に浸っていただけなのかもしれない。
我々の代わりに人に剣を振るう者達がいた事も忘れて」
「遊びだと笑うのか?
・・・俺はこれでも真剣にやってきた」
なのに、と彼は歯を覗かせる。
「・・・やるか、稽古!」
「は?」
スッと立ち上がり、ジストは剣を抜く。
「確かめたいのだろう?
君が剣を抜く事ができるのかどうか」
「そんなもの・・・。
第一、お前、今さっき気が付いたばかりだろうが。不完全なお前とやり合ったところで何の意味も・・・」
「“戯れ”でもよいではないか。気晴らしにはなるだろう?」
「・・・これだからお前という奴は」
彼もまた剣を引き抜く。
不思議と刃が軽く感じたのだった。
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