(情けない・・・)

甲板で手すりにもたれかかって海面をじっと見つめるコーネルの姿。
波に揺られているうちに彼は気付いた。

(この揺れのせいだ・・・)



「おーい、王子ー?」

呑気にやってくるアンバーに見向きもしない。

「どうしたのさ?」

「煩い・・・1人にさせろ」

あっ、とアンバーは気付く。

「・・・酔ったんでしょ、船に」





コーネルとしては屈辱極まりないが、アンバーは彼を気遣って傍の椅子まで肩を貸す。

「海沿いの国で育ったのに船に慣れてないとは意外だな」

「今までは陸路で事足りた・・・
船、など・・・」

乗った事がない、と言いかけて言葉を飲み込む。
ちゃっかり隣に座るゾンビ男がニヤニヤと笑っているのを見たからだ。



甲板には船客が風を浴びに何人か出てきていた。
見た目からして庶民以上の身形の者が多い。それもそのはず、これから向かう白の国は由緒正しい人々が住む神聖な地なのだ。この船へ乗るためにもそれなりの額が要求される。
そういえばその料金はメノウが払っていたようだが、5人分の代金をどう工面したのか謎だ。

そうやって首を傾げていたアンバーの視界に、ある2人組が映る。
高級そうな黒いレースの日傘を手に、黒いミニドレスを着た少女。そして傍らに控える、同じく黒い服の長身の青年。
どこかの貴族の娘と執事だろうか。2人は共に海を眺めていた。

「俺達と同じ港から乗ってきたって事は、青の国の貴族かな?
ねぇ王子、あの子ら知ってる?」

「知るか・・・
どうせ、よくて貴族の底辺階級だろう」

ふうん、そっか、とアンバーは頷く。
その時はただ気紛れに話題にしただけだった。





「素敵な青空ね、エレス」

「はい、それはもう」

「ね・・・
今晩はどんなパーティーになるかしら?」

少女の紫と青の瞳が妖しく光る。

「海の上のパーティー、素敵よねぇ・・・
どんなゲストが来るかしら。どんなお料理が食べられるかしら。
きゃは、キャハハ・・・」

薄い唇が妖艶に弧を描いた。

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