「意味わかんねぇ。なんで俺が撃たれなきゃなんねぇんだ」

でも、まぁ、と彼はニヤリとする。

「こんだけ美人に介抱されるんなら本望ってか」

せかせかと治療を施していたサフィが驚いて肩を跳ねた後に恥ずかしそうに俯く。

「ねぇ、こいつトドメさしてもいい?」

にっこりと笑うアンバーを宥め、傍らに座るジストはベッドの上で包帯を巻かれた男に問いかける。

「君はグレンといったな?」

「あぁそうだぜ」

「グレンって名前、なんか聞いた事あるな俺」

「はっ、馬鹿が。三賢者の名前だろう」

コーネルの指摘にアンバーはあぁ、と思い出す。

「なんや、賢者狙いの連中でもおるんやろか」

なんとなくそう言ったメノウにジストが食いつく。

「そうだ、きっとそうに違いない!
グレン、何か心当たりはないか?!なんでもいい!
狙われる原因でも、襲ってきた者達の事でも」

「心当たりがありすぎて俺にはわかんねえや」

ケラケラと自分の不貞を笑い飛ばす彼。

「グレンさんは知らないの?
レムリアって人が攫われたかもって話」

「レムが攫われたぁ?」

初耳とばかりにグレンは首を傾げる。

「なんだ。巻き込まれたのは俺だけじゃねぇのか。
・・・って、クーはどうなんだ?」

「クー?」

「クレイズだよ。錬金術の。
あいつは無事なのか?」

「あぁ。無事だ。私達が直接会ったからな」

そう言うジストをまじまじと見たグレンはある事に気が付く。

「あんた、レムの雇い主じゃなかったか?」

「そうだ。ミストルテイン陥落以来行方不明になってしまった彼を探している。
君は同じ三賢者だろう? 何か知らないか?
クレイズにも同じ質問をしたが何も教えてもらえなくてな」

「そらそうだ。クーとレムは犬猿の仲だぜ?」

意外な情報に一行は驚く。
その様子を見て話す気になったのか、グレンは枕に背を預けて遠くを見つめる。



「俺とレムとクーは学生時代の同期だ。その時は結構ウマが合ってな、一緒の研究機関でしばらく活動してた。
ま、俺はこの通りのポンコツだからな、すぐに研究に飽きちまって放浪生活だ。
それから少ししてからだったか・・・。
俺が久しぶりに会った2人は人が変わっちまってた。別人みたいに」

「別人だと?」

「あぁ。例えだ、例え。
俺がいない間に何かあったんだろ。あの2人、そりゃあ物騒な関係になっちまってたぜ。
主にクーがな。あいつ、レムをぶっ殺す勢いで恨んでるみてぇだぜ」

「こ、殺す?!レムを?!
あんなに温和な者を?!」

あまりの動揺にジストはよろめく。

「なんだあんた、雇い主のわりにレムの事知らねぇんだな。
温和? どこがだよ。あいつほど悍ましい男はいねぇぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、グレン。
私の頭がついていかない・・・」

自分が思い描く“彼”とは真逆の言葉が次々と出てくる。
混乱のあまり頭を抱えた。

「だから言っただろ、昔と別人だってよ。
そうだ、俺が言う“変わる前”のあいつはまさしくあんたが言う通りの奴だったさ。
何がどうして、あんな風になったんだか」

「おい、賢者。
さっきから肝心なところを言わない。レムリアは一体何をしでかした?」

腕を組んで黙って聞いていたコーネルが痺れを切らしたように聞くが、グレンは首を振る。

「やめとけ、聞くなって。血生臭い話だからよ」

“彼”とはまるで無縁そうな言葉。
深刻な面持ちでいるジストの頭をメノウがポンポンと軽く叩く。
何か、ジストの中で支えになっていたものがグラグラと揺れ出したような、そんな感覚が彼女にはあった。

「で、そのレムが攫われたって?
どうせ黒の国にでも行ったんじゃねぇの。最近キナ臭いらしいぜぇ、あの国」

億劫そうに横たわるとグレンは背を向ける。

「ったく・・・さっさとどうにかしてくれ。
結構痛ぇんだぜ、銃弾ってのはよ」

彼が眠りにつく頃には、外はすっかり真夜中になっていた。

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