宿のテラスでジストはぼんやりと夜空を見上げていた。

「眠らんのか、姫さん」

「考え事をしていたら寝付けなくなってな」

彼女が何を悩んでいるのか。メノウにはすぐにわかった。

「なぁ、姫さん。ホンマにレムリアを追うんか?」

背を向けたままジストは返事をしない。

「ワイは別にどっちでもえぇ。姫さんが好きな方選びや」

「メノウ。少し聞いてくれないか」

ジストは彼を隣の椅子へ招く。



「少し・・・気になっていた事があるのだ」

彼女はそう言って手袋を外す。
再びあの指輪がメノウの前に現れた。

「父上は私に指輪を守れと、そう仰った。
そしてもう1つ、今際に仰った事がある」

そっと指輪を撫でる彼女。

「“レムリアを信じ”、と。
最後まで言い終わらぬうちに逝ってしまわれた。
・・・君はこれをどう思う?」

先立つ償いとして後をレムリアに任せたのか、それとも。

「私はレムを信じろ、という事だと思った。
・・・の、だが」

その先を言えない。言ってしまったら、“彼”を裏切るような気がして。

「何を信じればいいのか。
今までの“彼”を信じるべきか、グレンの話を信じるべきか、わからない・・・」

「本人に聞けばえぇやん」

しばらく沈黙してから、ジストは顔を上げた。

「そうか」

当たり前の事に気が付かなかった。

「そうだ。私はレムともう一度会って話をしたい。
・・・ついて来てくれるか、メノウ?」

「あぁ」

ふ、とジストは微笑む。

「ありがとう。なんだかスッキリした!」





語らう2人を壁際からそっと覗き見る影。
ジストに戻った笑顔を見、その影は静かに去る・・・――

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