ダンッ!と音を立ててコップがテーブルに置かれる。勢いで水が溢れた。

「俺が殺人鬼だと?
馬鹿馬鹿しい。とんだ濡れ衣だ」

暗闇の中で助けた者はやはりジストの幼馴染であるコーネルだった。
怪我はないが、強気の表情の中に若干の疲弊を感じる。

「とんだ節介や思ったら、あながち無駄でもなかったか」

「フフ。やはり私の言った通りであった!」

偉そうに笑うジストはニンマリとした顔でコーネルを見る。

「どういう意味だ?」

「最近君に似た殺人鬼が夜間に人を襲っていると聞いてな。メノウを連れて夜道を警備していたのだ!
そこで偶然にもあの殺人鬼に襲われている君を見つけた。
私の推測は大当たりだ!ふはは!」

「逃がしてもうたやん」

率直な反応にもジストは涼しい顔だ。

「あの怪我ではしばらくまともに動けないだろう。
本当は捕えたいところではあったが、それは警備隊に任せよう。
我々は立派に勤めを果たした!」

「めでたい頭やなぁ」

「コーネルは私に感謝するといい。私が君を救ったのだから!」

「誰が貴様などっ!!
あんな奴、俺が1人でも・・・――」

「私達が君を見つけた時、君は追い詰められて喉を裂かれそうになってはいなかったか?」

「ぐう・・・」

決まりが悪そうに舌打ちをしたコーネルはコップの水を乱暴に飲み干す。



「それで、君は何故こんなところに?
ここは城からもそれなりに離れた場所だぞ?」

今いるここは、副都市ニヴィアンの果てとも言うべき場所。
確かに、コーネルが住む首都カレイドヴルフの王城からはかなり離れた地だ。

「俺はお前を追ってきた」

「私を?」

ジロリ、とコーネルはメノウを睨む。

「仮にも一国の王子が、こんな素性の知れない傭兵などという犬を連れて歩くなど・・・
品がない。俺はお前を連れ戻しにきた」

「またそれか。いいかコーネル、私は遊びで旅をしているわけでは・・・――」

「なになに、騒がしいけど」

扉からアンバーとサフィが顔を覗かせた。

「・・・なんだあの者達は」

「あぁ、紹介が遅れたな。2人は・・・」

「コーネル王子?!コーネル王子じゃん!!なんでこんなとこに?!」

「お、王子様・・・?!行方不明、って・・・!」

同じタイミングに同じようなリアクションをする謎の2人組に、コーネルは開いた口がふさがらない。

「ジスト、お前、また変な連中と・・・」

「旅は道連れだ!
私達はこれから黒の国へと向かう。君には悪いが、連れ戻される気はない」

「正気か、ジスト?!
黒の国に行くだと?そんなところへ行ってどうするつもりだ?」

「私はミストルテインを復活させる。その為には、犠牲になった多くの者の想いを果たさなければならない。黒の国には、緑の国を襲った理由があるはずなのだ。それを探しに行く」

「・・・本気か」

「あぁ、そうだ」

しばらく沈黙する。

「俺を連れて行け」

ジストは目を丸くした。

「君を?」

「そうだ。
お前が本気なのはわかった。だがなんだ、連れ歩いている連中は。
こんなよくわからない奴らにもしもお前が殺されたら癪に障る。俺がお前を打ち負かすまでお前に死なれては困る。だから連れて行け」

「わかった」

あっさりと承諾したジストにメノウの呆れた視線が刺さる。

「知らんで。ワイの仕事は姫さん守る事だけやからな」

「はっ!誰が傭兵の護衛など受けるものか!!
俺はジストとは違う!!貴様こそ俺の足手まといになるなよ!!」

ギリリと歯を覗かせるコーネルに苦笑いだ。

「さてコーネル。
そうと決まったからにはまずやってもらわねばならない事がある」

そう言うと、ジストはおもむろにペンと紙を取り出して彼に差し出した。

「なんだ?」

「まずはラズワルド殿に無事を知らせる旨と、これから私に同行する旨を自筆で書くのだ。
当たり前だろう?この不良め!」

バツが悪そうな家出王子に、忍び笑いが漏れた。

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