「くっ・・・」
夜通し休まず数日歩き続けた足がそろそろ言う事を聞かない。
コーネルは傍の木にもたれかかり、そのままズルズルと座り込む。
ただの衝動だった。
従妹との婚約を迫られる宴に嫌気が差し、そして対称的に自ら外の世界へ踏み出した幼馴染に嫉妬にも似た気持ちを抱えていた。
“奴”を追う、そう決意して彼は城から飛び出したのだ。我ながら自分勝手だと、疲労で動かない自分の足を眺めて鼻で笑う。
それでも不思議と満たされていた。まるで牢から解き放たれたように。
ガサガサ、と草が不自然に揺れる音がする。すぐにコーネルは剣の柄に手をかける。
月明かりに頼るしか術のない視界の中、1人の影が現れた。
「誰だ?」
連れ戻しに来た城の兵士か。彼はそう予想する。
しかし問いかけに答えずに人影は静かに迫る。
コーネルは剣を引き抜くと、刃が白い軌道を描いた。
ゆっくりと立ち上がり、迫りくる人影へ応戦する姿勢に移る。
「見つけた」
それは人影が零した一言。
何を、と言おうとした手前、コーネルは目を見開いた。
自分を鏡に映したような姿。
しかしその瞳は、青空の色と反した曇天の色だ。
「貴様、何者・・・?!」
まるで自分がもう1人いるようだ――・・・
青年は凍てついた顔をわずかに歪ませる。振るった刃に殺意を乗せ、彼は飛び掛かってきた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる・・・――」
呪詛のようにそう呟く彼の刃をコーネルは振り払う。
キン、キン、と刃が噛み合う音が夜道に響く。
「貴様は誰だ?!
俺に何の・・・――」
「“俺”は2人もいらない。俺こそお前に相応しい。
俺はお前を殺す!!“奴”のために・・・!!」
「ぐっ・・・!!」
突然の頭痛に襲われ、コーネルはよろめいた。木肌に背を預けて倒れまいと震える足で地面を蹴る。
ところが、彼の頭を青年はすかさず掴み、木に押し付ける。喉元をさらけ出させると、剣の切っ先をコーネルに突き付けた。
「弱い者は淘汰される。強い者が生きる。
・・・“俺達”はそういう存在でもある」
「はっ・・・。何を言いだすかと思えば。
俺を殺してお前はどうするつもりだと言う?
・・・お前に俺は務まらない・・・」
「黙れ!」
声を荒げた青年は、突き付けていた剣を勢いよく振るった・・・――
パンッ!!と破裂音がした。
聞いた事のない爆音に反射的に身を竦めたコーネルは、一瞬目を瞑ってからそっと開く。
自分の足元に青年が倒れ込んでいた。
「当てるなと言ったではないか!」
「急所は外しとるわ」
「そういう問題ではない!!」
向こうの木陰から聞き覚えのある声がした。
体勢を立て直したコーネルは、倒れる青年に剣を振りかざそうとする。
「待て、コーネル!!」
探していた者の声に制止され、コーネルは剣を下ろした。
倒れていた青年はユラリと立ち上がり、目の前のコーネルに目を合わせずに静かに去って行った。
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