暗い裏道を速足で歩く人物。
彼は黒いフードを目深に被り、外套で身を隠していた。
路地裏でたむろしていた賊の端くれが、その怪しい人物を見てすかさず絡みにいく。
「よう、兄さん。そんなに急いでどこ行くんだぁ?」
数人の男に行く手を阻まれ、青年は足を止める。
「どけ」
「おいおい、口のきき方がなってねぇんじゃねぇの?」
煽るようにそう言うと、ダラダラと歩いて来て顔を覗き込む。
「金持ってそうだな。
・・・貸してくんねぇ?」
「貴様らにくれてやるものなどない」
「あンだとぉ?!」
すぐさま賊は拳を振り上げる。
青年に向かって飛ぶ拳は強烈だ。
ところが青年はそれをあっさりと避けてしまう。
「なっ・・・コイツ!」
「そこをどけ。邪魔だ」
「てめぇ!! ブッ殺・・・」
言った傍から賊は動きを止めた。青ざめてわなわなと震える。
――青年が外套の下から剣を抜いたからだ。
「ひ、卑怯・・・?!」
「不運だったな。――死ね」
ズザッ、と刃が身を引き裂く。
断末魔もなく倒れた男を見た仲間の賊は、腰を抜かしてへたり込む。
「ひ、ひぃっ!? お、お助け・・・ぐはぁっ!!!」
ポタポタと赤い雫が地面に池を作る。
「お前も死ぬか?」
赤い切っ先が喉元に突き付けられ、最後の1人が必死で首を振る。
その男は目の前の恐怖の具現を凝視した。背後の空、雲から月が現れる。
青白い月光に照らされた青年は無表情だった。まさに今人を殺めた者の顔とは思えない、無機質な表情だ。
そして、男の中にあった引っ掛かりの正体が無意識のうちに言葉として出てきた。
「・・・ま、まさかあんた、コーネル王子・・・――」
目元に落ちた暗い影の中、不気味なほど透き通ったグレーの瞳がギラリと光った。
「う、うわああ!!!」
もがいて逃げ出した賊の背を刃が断ち切る。
無残に散らばった死体を見下し、青年は肉塊を超えて夜の闇の中を再び歩き出す――
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