「・・・む?
・・・・・・はぁ?」
したり顔のマオリはトランプの向こうで笑う。
「あらあら、どうしますの?
いやですわ、わたくし勝ってしまいますわよ?」
「おいおい・・・とんだ逸材だぜ、このお嬢ちゃんはよ・・・」
次の一手を考えようとしたところで、部屋の外から銃声と悲鳴が聞こえた。
「フン・・・どうやら虫が入り込んだようだな」
ゆっくりと立ち上がるホークスは、向こうの扉が蹴倒された瞬間を見た。
大きな音に驚いた周辺の者達は散り散りに壁際へと逃げる。
「マオリ!!」
その声に驚いた彼女が顔を向けると、覚えのある者がそこにいた。
「ジスト様!!ジスト様ですの!!
きゃああ!!素敵ですわぁ!!!」
「ね、ねぇジスト、あの子のあのテンション・・・なに?」
「マオリは私のファンなのだ。フフフ」
あ、そう、とアンバーが反応したところで、すぐさまホークスはマオリの首にナイフを突きつける。
「礼儀のない客だなぁ?
これ以上好き勝手されたらこのお嬢ちゃんの命はどうなるか・・・」
「あ!!汚いですわ野蛮ジジィ!!
わたくし勝ちましたのに!!」
「えぇい煩い!!
シーラ!!」
「はい、マスター」
ホークスの脇に座っていた女性はスラリと立ち上がり、目にも止まらない速さでソファとテーブルを飛び越えて向かってきた。踏み台にされた客達が悲鳴を上げて倒れる。
「姫さん危ない!!」
その声に反応するより先にシーラは短剣を振るう。寸でのところでジストを突き飛ばしたメノウの肩を刃が掠った。
「っつ・・・!」
「メノウ?! 大丈夫か?!」
返事代わりなのか彼は素早く銃口をシーラに向けて一撃。
弾丸の速さに物怖じせず俊敏に避けた彼女だが、頬に掠り傷が刻まれた。
飛んだ弾丸が天井の照明にあたり、ガシャン!と派手な音を立てて落ちてくる。それをすかさずアンバーが槍で弾き飛ばし、雨となった破片がシーラに降り注いだ。
「なんだコイツらは・・・!」
「ま、マスター・・・ここは一旦退くべきと判断します」
「チィ・・・仕方ねぇ!
トンズラするぞシーラ!!」
「きゃあ!?」
押しのけられたマオリをジストが抱えて保護する。
窓を蹴り破り、ホークスとシーラは素早く姿をくらませた。
一瞬、しんと静まり返る。
身を竦ませていた客が恐る恐るこちらに目をやるが、銃を向けるメノウに驚いて息を飲む。
「どうする? 姫さん」
「マオリは助けた。後はもういいだろう」
そうか、とメノウは銃を下ろす。部屋中から安堵の息が漏れた。
「メノウさん、肩の傷・・・」
サファイアが心配そうに窺う。
「大した事あらへん」
「な、治します!」
「治す?」
サファイアはメノウの傷に手を翳す。
ふわりと白い光が湧いたかと思えば、一瞬で傷が消えた。
目を丸くする彼に、アンバーは自分の事のように自慢げに語る。
「すごいでしょ。サフィは傷を癒せるんだ。
ちょーっと特殊な力だから、うっかり死んだ人も蘇っちゃうんだけどね?」
サファイアの能力の正体だ。
そもそも回復魔法を使える術士は世界でも少ない。死者を蘇らせてしまうほど強力な力の持ち主など、それ以上にいないだろう。
マオリを連れて外へと出る。
そこでようやく、彼女はゆっくりと頭を下げた。
「助けてくださって感謝しますわ。
それに・・・まさかジスト様がいらっしゃるなんて!!
わたくしのナイトですわ!!感謝感激ですの!!」
「思ったより元気そうだね」
アンバーの素直な感想に、マオリはニヤリと笑う。
「えぇ。伊達にオリゾンテの分家はやってませんのよ。オホホ」
「して、マオリよ。事情を聞こうではないか。
君は攫われたというが、シンハや公爵殿は?」
その名を聞いた彼女は露骨に嫌悪の表情を浮かべる。
「あのクズ、わたくしをエサに逃げたんですの。
今頃のびのびと王城で寛いでいますわ。あぁ腹立たしい!!」
聞いていた話と違った。
盗賊に一方的に攫われたものだとばかり思っていたが、なんと実の妹、娘を賊に渡して自分達は逃げたというのか。
とんだ外道だとジストは思わず自らの額を押さえる。
「という事は、王城連れてけばえぇんか?」
いえ、とメノウの言葉に首を振る。
「うんざりですわ。わたくし、屋敷に帰ります。
だからニヴィアンまで送ってくださると助かりますの」
「マオリ様が無事だったとギルドに報告もできますし、いいと思います・・・!」
サファイアの賛同に頷き、一行はマオリを送り届ける事にした。
「ところで、ジスト様はどうしてわたくしを?
それに・・・後ろの方々、傭兵ではありませんの?」
小声で尋ねてきたマオリにジストは答える。
「私は今、旅をしているのだ。
後ろの者達は私の旅仲間だぞ。皆、実に親しみやすい人格をしている」
「旅・・・いいですわね。わたくしもお供したいくらいですわ」
「一緒に来るか?マオリ」
「いいえ。わたくしは自由な旅の前にクソ兄貴とクソ親父に復讐をする準備をしなければなりませんのよ。オホホ。
それに、わたくしは学生ですわ。魔法学校も案外居心地がいいところですのよ」
「そうか・・・。
私は何もしてやれないな・・・」
「いいんですのよ。
ジスト様を想い焦がれるだけで何でも乗り越えられますわー!!ハァハァ」
強いのか、それとも繕った強さなのか。
ジストにはよくわからないが、とにかく無事で良かったと胸を撫で下ろした。
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