分家貴族の娘が攫われたらしい。
情報が早いギルド内では、その話題で盛り上がっていた。
面白おかしく語る者もいれば、娘の生死を賭けている者までいる。
この話に即座に反応したのはジストだった。
「マオリだ。マオリが攫われたのだ!」
「マオリ? 誰やそれ」
自身のここへ来た目的も忘れて彼女は慌てる。
「コーネルの従妹だ!
私とも面識がある。同い年の娘なのだ。
これは放っておけない!!」
「へぇ。そういう事ならスルーできないね。
まずはその子を助けに行っちゃう?」
ジスト1人の時は面倒事に首を突っ込むなと言えたものだが、このゾンビ男が乗り気になっているせいで一方的に止めるのも気が引ける。
「しゃーないな・・・。
そんじゃ、行くか」
折れたメノウはカウンターに近づいてギルドマスター――トリスに声をかける。
「よう、メノウじゃないか。
お前もお嬢様誘拐事件を聞きつけてきたのか?」
身形は若々しい女性だが、ガサツな口調のマスターだ。
海賊風の服装に淡い桜色の長い髪、薄紫色の瞳という変わった容姿である。
こちらもメノウとは知り合いのようで、そんな彼女に彼は淡々と事情を説明する。
「うちのツレがその娘と顔見知りらしくてな。
面倒やけど行きたい言うて聞かんから」
「そうかそうか!そりゃあ丁度いい。
実はこの件、うちの連中の美味しい話題にはなってるんだが、行きたがる奴がいなくてな」
何やら訳ありのように聞こえる。
トリスは声を潜めた。
「このお嬢様ってのが、ここ、副都市ニヴィアンのでっかい屋敷の娘でさ。
一家共々、いい噂がないんだ。肝が小せぇ公爵に、傲慢な子爵。その妹が例の娘。
この娘ってのがまた面倒でよ、喧嘩っ早くて高飛車なんだなこれが」
「なんやそれ。放っといても帰ってくるんちゃうか」
「まぁ、それもそうだけどよ・・・ギルドのメンツってもんがあるだろ。
それに、今晩は王城で宴がある予定らしくてさ、そこに向かっていた最中の出来事じゃあお国も黙ってないだろ?」
それもそうだ、となんとなく納得したメノウの前に、トリスは書類を差し出す。
「さ、そうと決まればサインしてくれよ。
どの道この仕事はお前か“虹獅子”に頼む予定だったんでな」
不本意だが彼はそこにペンを走らせる。これで正式に請け負った仕事という事になるのだ。
「ありがとよ。
・・・それにしても、ツレがいるなんて、お前にしては意外だな?」
「こっちもいろいろあるんよ」
くるりと背を向け、彼はさっさと行ってしまった。
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