「へっへっへ。
丁度いい。・・・いや、最高の獲物じゃねえか、なあお前ら?」
「あぁ、全くだ。
まさか王家の分家がノコノコ通りかかるなんてなぁ!!」
馬車を囲む盗賊集団が一斉にナイフを手にする。
すっかり油断していた分家一行は、最低限の護衛しか連れてきていなかった。
「ちょっとお父様、どうなさいますの?!」
「どうもこうも、蹴散らすしかあるまい!!
おいシンハ、どうにかせんか!!」
「はぁ?!
この気高い俺様の美しい剣をこんな汚らわしい俗物に振るえと?!」
「美しいも醜悪もありませんわよ!!
ここで殺されたら何の意味もないですわ!!」
「うるせぇ!!
ちくしょう、護衛共は何を手こずっている?!」
「無理もありませんわ。
特別手当をケチって下級の騎士しか連れてこなかったんですもの」
「えぇい、黙らんか馬鹿者!!
わしは生き延びるのだ!!なんとかせぇ!!わしの子供だろう!!」
うわぁ、ギャア、と次々に悲鳴が外から聞こえる。
やがて静かになり、馬車の中にいた分家の3人は顔を見合わせる。
「さぁ出てこい、馬鹿貴族共!! 掻っ捌いて売り払ってやるぜ!!」
ガタガタと馬車が揺らされる。
危機に陥る分家一家は揃って青ざめた顔を並べた。
「おい、マオリ」
「な、なんですの?
やっとそのツルツルの脳味噌が働いて?!」
「お前が行け!」
「行けって、どこへ?」
「外に決まっている!
お前で手を打つ!!」
マオリは唖然とした。
「待たんか、シンハ!!」
兄の悪い冗談に粛清の声、マオリは一瞬ほっとした。
――が、
「お前は今晩の目的を忘れたのか!!
マオリを連れて行かんで、本家に何を土産にすれば良いという?!
もう少しであの第一王子のもとへ嫁げるかもしれぬというのに!!」
「んなモンなんとでもなる!!俺がリシアを娶ればいい!!
いいから行けよマオリ!!俺らを救え!!」
なんという事だ。
自分の価値を見失うマオリは、シンハに押しのけられて放り出された。
「ちょ、ちょっと?!」
「おい、賊共。運が良かったな。
その娘をくれてやる!! だから俺達は見逃せ!!
そうすれば罪は咎めない!!」
まさかの反応に、盗賊の方がポカンとしていた。
「いくぞ父上!!逃げろー!!」
あっという間に馬車は夜道の向こうへ消えた。
「あ、あんまりですわ・・・」
しばらく立ち尽くしていた集団だが、やがて賊はマオリを捕えてしまう。
「せっかくだし使ってやろうぜ」
「“あの方”へ貢げば褒美はたんまりだろう!」
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