廊下が一気に人で溢れる。
その流れに逆らうように歩いていくと、集団から外れたところを先程の少年が歩いていた。
声をかけると、少年は立ち止まった。

「もう用事は済んだんですか?」

「あぁ。
半ば追い出されるように戻ってきたところだ」

「やっぱり。
・・・すみません。あの人、愛想ないんで」

どの口が、と突っ込みかけたメノウをジストが瞬時に遮る。

「君はクレイズの弟子か何かなのか?」

些細な事を問いかける。
すると、少年は首を横に振った。

「確かに、弟子ともとれるかもしれませんけど・・・。
ボクはあの人の娘です。血の繋がりはありませんけどね」

「む、娘?」

「え?」

改めて目の前の者を見つめる。

「・・・驚いたな。私とした事が、乙女を見紛うなど・・・」

ジストのボソリとした呟きを聞いた“少女”は、一瞬の間の後に怒りで顔を真っ赤にした。

「ちょっと待ってください!!
アナタ、もしかしてボクの事を男の子だとか思ってました?!
ボクは女ですよ、女!!」

「す、すまない!
てっきり少年かと・・・」

「なんて失礼な!!」

ギッと歯を覗かせる少女を慌てて宥める。

「そ、それは置いておいて!
先程は助かった。ありがとう」

「置いておかないでください!重要な問題ですよ!!
・・・まったく。こんな人に親切するんじゃなかった」

彼女はツンと顔を逸らす。

「そういえば、君の名を聞いていなかった。聞いてもいいだろうか?」

「ボクですか?
・・・ボクはカイヤです。カイヤ・レーゲン」

なるほど、確かにあの博士と同じ苗字だ。
血縁ではないと言っていたが、ジストには何となく両者が似て見えた。

「そうか。カイヤ、改めて礼を言おう」

「い、いいですよ、もう・・・。
別に大した事してないですから」

それじゃあ、とカイヤは別れを告げる。

「ボクもう行きます。
さよなら」

彼女はつかつかと階段を上って行ってしまった。


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