「よくもおめおめと呑気に顔を出せたものだな、ジストッ!!!」
「もう、やめなさいよコーネル。せっかく無事にここまできてくれたのに!」
猛犬の如く噛みつく勢いで罵声を浴びせるコーネルをリシアが無理やり抑え込む。
「なんだ? 寂しかったのか?
ふははは、もう大丈夫だ。この通りピンピンしている!」
煽るようなジストの愉快な返しに、コーネルは更に怒りを露わにする。
「ごめんね、ジスト。
本当はこいつ、心配で心配で仕方なかったみたいなのよ」
「はんっ!!誰がこんな野郎の心配などするものかッ!!
俺はただ、城が壊れたくらいでポックリ死なれていたら癪だっただけだ!!!」
「相変わらずだなぁ、君は!
まぁ、安心したまえ。今晩はこの城で世話になる事にした」
「はぁ?! 調子に乗るな・・・」
散々騒ぎ喚いたところで、コーネルの視界に見慣れない者の姿が映る。
何事かと顔を覗かせたメノウだった。
「誰だ?」
「あぁ、紹介が遅れたな。
彼は私の護衛だ!」
「あんな男、お前の城にいたか?」
「いいや?
彼は傭兵だよ。緑の国のギルドで、私が雇った」
「傭兵だと?!」
またそれが気に障ったのか、コーネルはジストの襟を掴んだ。
「キッサマ・・・!!
傭兵を連れ歩くとはどういう事だ?!」
「何が悪いというのだ?」
きょとんとした表情に、コーネルは低い声で囁く。
「本当にお前が雇ったのか?
お前を殺すためについてきている刺客かもしれないのだぞ」
対するジストはむっとする。
「君もそうやって傭兵を軽蔑するのか。
彼が刺客なわけがない。もしそうなら、私を暗殺者から守ってくれるはずがない!」
「それは本当に“守った”のか? お前にそれを証明できるか?!
それに、傭兵など雑魚同然・・・!
護衛など務まるわけがない!!」
「ちょっと、コーネル、言い過ぎよ。失礼じゃない!」
姉の耳打ちも飲み込まず、コーネルはつかつかと壁際のメノウに近寄る。
「おい傭兵。
貴様の目的はなんだ?」
メノウは答えない。
いつも通りの無表情で、腕を組んだままコーネルを見下ろしている。
その態度もまた気に喰わない。コーネルは負けじと見上げて睨む。
「どこの誰かもわからない男に、王族の護衛など。
地位か名誉か?!」
「金」
端的な答えが返ってくる。
一瞬目を丸くしたが、それでもコーネルはまた睨みつける。
「金か。傭兵らしい、実に卑しい理由だな。
だが貴様に護衛を名乗る資格があるのか? どうなんだ?」
じりじりと詰め寄るコーネルを押しのけ、ジストは申し訳なさそうに顔をしかめる。
「すまない。気分を悪くしないでくれ。
コーネルは昔から少々頭が軽くてだな・・・」
「貴様ッ!!
ジストの分際で俺を侮辱するなッ!!!」
傍でおろおろと状況を見守っていた兵士が身に着ける剣を素早くひったくり引き抜いたコーネルは、刃の先をメノウの首に突きつける。
今度の王子は本気だ、と戦く空気が一瞬でその場を駆け廻る。
「おい、誰でもいい。同じ剣をこの男に渡せ。
俺が直々に確かめてやる。このふざけた野郎の技量をなッ!!」
恐る恐る出てきた兵士が、剣をメノウに差し出す。
無言で突っ立っていた彼は、面倒そうに剣を受け取った。
「や、やめろ、コーネル。
メノウも、わざわざ相手などしなくていい!」
慌てて止めようとジストが割り込もうとするが、コーネルに押しのけられた。
「お前は黙って見ていろ。
お前が考えなしに連れ回している男がどんな奴か、その目に焼き付けるんだなッ!!」
刃の先は外さない。しかし今まさに貫かれる一歩手前の状態であるにも関わらず、メノウはじっとコーネルを見ていた。
「早く構えろ。さもなければ首を撥ねる」
ごくり、と周囲の者達が息を飲む。
いつの間にか、剣の打ち付け合いに巻き添えにならない程度の距離を取っている。
「やめるんだ、こんな危険な・・・」
「ジスト、あなたが一番よく知ってるんじゃない?
・・・剣を持ったコーネルが、素直に退く奴じゃないってこと」
リシアにそっと手をひかれ、ジストも観客側に吸い込まれた。
はぁ、とメノウはため息を吐く。
反射的にまた罵声を口にしようとした矢先、
キンッ!!
と刃が弾かれる音が城内に響いた。
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