何が起きたのか、コーネルは一瞬混乱した。
鋭い音がした時、自分が相手に突き付けていたはずの刃が弾き飛ばされていた。
鞘に収まったままの剣を持つメノウの瞳が先程までとは違う殺気に満ちる。
「なっ、貴様・・・!!
剣を抜け!! でないと・・・」
「手前は死にたいんか? あぁ?」
低く深い声だ。聞いた事もない口調と、向けられた事のない殺気にコーネルは冷たい汗を感じる。
彼なりの一言で言えば、この男は尋常ではない。
「ふ、ふん・・・。挑発に乗るか?
剣を抜けよ。相手してやろう」
「それは出来へんなぁ・・・。
抜いたら、あんさん殺してまうわ」
「この・・・っ!!」
コーネルは昔から煽られる事に弱い。ジストはこのやり取りを見て正直ホッとしていた。
メノウはコーネルを怒ってはいない。殺そうともしていない。ただ、子供の相手をしてくれようというのだ。
「俺を侮った事、後悔させてやるッ!!!」
素早い斬撃で向かうコーネルと、それを軽くかわすメノウ。
何度振るえども手応えのない剣撃に、コーネルは戸惑う。いつもはジストと互角に対峙する技だった。
そのうち、一度剣を振るうとその後に返しの2,3撃がコーネルを襲う。その素早さたるや、見た事がなかった。防ぐだけで精一杯で、反撃しようと剣を押し付ければ、むしろこちらの刃が折れてしまいそうなほど重い一撃がギリギリと迫る。段々と息も上がってくるが、目の前の傭兵は真顔で倒しにきていた。
これが傭兵だというのか。
根無し草で、地位の底辺で、目的のためには手段を問わない存在――
そんな事を考えたのが隙だったのか、ついに剣を手から弾き飛ばされ、床に叩きつけられた。倒れたコーネルの後を追うように、持っていた剣が石の床に落ちて滑る。
「うっ・・・ぐ・・・」
「コーネル!!」
慌ててリシアが駆け寄り、弟を抱え起こす。頭を軽く打った衝撃で意識が混濁しているようだった。
もうやめて、と言いかけたが、すでにメノウは剣を持ち主に返していた。
目の前で圧倒的な技量の差で王子を打ち負かしたその傭兵に、観衆の視線が一気に集中する。
コーネルはこれでも騎士団の一員として名を連ねるほどには剣の才があった。つまり、コーネルの敗北は騎士団の敗北に等しい。
名もわからぬ一端の傭兵にあっさりとやられた事実に、主に騎士団の面々が唖然としていた。
「せやから言うたやんけ。
剣抜いたら殺してまう、ての」
それで、とメノウは寄ってきたジストに目をやる。
「なんやこれ。王子ぶっ飛ばすなんざ牢獄行きか」
「それはないだろう。
仕掛けたのはコーネルの方なのだから。
むしろ、これで少しは懲りてほしいものだ」
呻き声を上げる幼馴染に、ジストは苦笑いする。
「さぁ、もう休もう。
メノウ、君も一緒に来るといい。この城の部屋は格別だぞ!」
伸びるコーネルをリシアに託し、ジストは使用人の案内で今晩休む部屋へ向かった。
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