「さぁ、これでいいでしょう。
・・・それにしても、腕の骨を軽々と折る人間なんて、どこかの大男ですか」
「おいクライン、私は好きで人の骨を折っているわけではないのだぞ」
片や赤紫の長髪を束ねた白衣の男、片や熊のように大きな筋骨隆々の茶髪の男。
その2人の傍に座っていたのは、黒いコートの青年だ。
「私とした事が、油断していました。傭兵を甘く見てはいけないですね。
ですが、久しぶりに胸が高鳴る相手でした。この傷の痛みも久しぶりの悦です」
ふふ、と青年は微笑む。包帯と板で固定された右腕をそっと撫で、彼は昨夜の戦いを思い描く。
そこは石造りの施設だった。窓の外は灰色で、一足早い冬の訪れのように寒々とした隙間風が入り込む。
「姫君の方は何とも警戒心のない・・・。
注意すべきは傭兵です。炎のような赤い髪に、朱の瞳。
・・・間違いない。あれはクライン様が仰っていた、“赤豹”です」
赤紫髪の男は、紫と青の瞳を細めた。
「なんだ、その、赤豹とやらは?」
体躯のいい男が聞くと、赤紫髪の男は手にしていたカルテを下げて腕を組む。
「傭兵界隈では腕が立つ事で特に有名な男です。
赤豹、金狐、虹獅子・・・。彼らの容姿から、そういう通り名がつけられたそうです」
彼はそう説明する。
ふむ、と鼻を鳴らした体躯のいい男は、指を折る。
「傭兵界の三賢者のようなものか」
「簡単に言えば似たようなものです。もっとも、金狐は数年前に死んだと聞きましたがね」
カルテを棚にしまい、男は振り返る。
「あの男の他に、王女の護衛らしき影は?」
「いいえ。どうやら護衛は1人のようです」
「始末するなら今、ですか・・・。
エレス、次はフロウも連れて行きなさい。彼女もいれば恐らく・・・」
その名を聞いた青年は素早く立ち上がる。
「仰せの通りに、クライン様!
フロウ様と共にあれば、この上なき力添え! 有難き幸せ!
すぐにでも飛んでいきたいくらいです」
「・・・まずはその腕を治してからの方がよくないか、エレス?」
「・・・はい、ウバロ様。
慢心は仇になると自分で忠告したというのに、私は」
逸る青年を前に、2人の男はため息を吐いた。
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