ふと、目が覚める。
窓の方に頭を傾けると、山の向こうにうっすらと白い光が出てきていた。もうすぐ明け方だ。
すっかりよく眠ったようで、数日ぶりにすっきりと起き上がる。朝の空気に触れようと窓辺に近づくと、昨夜武器の手入れをしていたメノウが変わらずそこに座ったまま転寝をしていた。ただ静かに眠っていて、でも少しの音でも起きそうな彼は、どこかに潜む野生動物に似ている。

彼の肩を揺すろうと手を伸ばしたところで、そういえば、とジストは思い出す。
朝方に仕事を終えて帰ってきた彼をそのまま自分の旅に巻き込んだ。野宿の時も眠っていなかったようだし、ひょっとしたらここ数日まともに寝ていないのではなかろうか。
ジストは起こそうという気を静め、自分の剣を持ってそっと部屋を出る。



森の近くであるその小さな集落は、朝の風が実に清々しく瑞々しかった。
朝露に濡れた青々しい草木、しっとりと肌を潤す霧、少しだけ顔を覗かせる朝日。深呼吸をすると、肺の中に溜まっていた古い空気が全て入れ替えられたように爽やかな気分になった。こんなに透き通った朝は生まれて初めてかもしれない。

宿屋の裏手に回る。そこは今借りている部屋の裏で、窓から眠っているメノウが見える。それを確認して頷くと、ジストはおもむろに鞘から細剣を引き抜いた。
朝日が白刃を煌めかせる。穢れを知らない、無垢な刃だ。
空に掲げた剣を、ジストは素早く振り下ろす。シュッ、と鋭い風切り音がした。鳥が羽ばたいたような音だ。
そのままジストは2,3度、剣を振る。そうしてから、そっと目を閉じてある光景を思い出していた。脳裏に描いたその光景に、彼女はそのまま体現するように動きを重ねる。



「ほーお・・・。
姫さん、案外戦いの素養あるんやない?」

半刻ほど過ぎた頃だろうか。剣を振るジストの背から、のんびりとした声がした。
手を止めて振り返れば、窓からメノウがこちらを見ている。普段のような斜に見る鋭い視線が、今は若干眠そうに細まっている。彼は欠伸をすると首を捻りながら立ち上がった。

「護衛が目を離した隙に部屋から離れるなと言いたいんやけど・・・まぁ、修行ならいい。
で? それはあれか、ワイの真似か」

ジストは上気した頬で速い呼吸をしながら、爽やかな笑顔で頷く。

「わかったのか?
実はな、君の戦い方をじっくりと観察させてもらっていたのだ。今に見ているといい、私は立派な戦士として生まれ変わる!」

ビシッ、と白い刃の先がメノウを指す。肩をすくめた彼は、窓から離れた。

「向上心もえぇけど、さっさと青の国に入るぞ。準備せぇ」

それを聞いたジストは瞳を輝かせる。

「そろそろ国境なのか?!」

「あぁ。この先の関所を抜けたら、もう青の国やぞ」

急いで剣を鞘に収め、ジストは回り込んで宿の部屋に帰ってくる。
ところが、やっと見えてきた目的の場所に心を躍らせたのも束の間、2人に思いがけない客がやってくる。

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