月の明るさが明白になる頃、ジストとメノウは森を抜けた先の小さな集落に辿り着いた。
暖かな明かりを漏らす宿屋は、この時間になって唐突に現れた旅の2人を労い、快く部屋を渡す。
木で出来た床に荷物を下ろすなり、ジストは助走をつけてベッドに飛び込んだ。
ふわふわとした弾力が彼女を受け止め、心地良い感触で包む。
子供のようにはしゃぐ彼女を呆れて一瞥した後、メノウは先程持っていた黒い武器をテーブルの上に置いた。
「メノウ、その黒い奇妙なものはなんだ?」
かねてより疑問であったそのものの存在を、やっと彼に聞ける時が来た。
ジストは興味津々でテーブルに歩み寄る。
「なんや、知らんのか。
これは“銃”つってな、この弾を撃つ武器やわ」
そう言って、彼は金の弾丸をジストに差し出した。
「金か? という事は、随分と希少な代物のようだな」
「なぁに、ブランディアに行けば砂金なんざたんまりある。
けどまぁ、この辺じゃ確かに珍しいかもしれんな」
銃本体にそろそろと伸びるジストの手がはたかれる。
「少し触るだけではないか!」
「あかんの。こいつは物騒な殺しの武器でな。
何も知らん奴が軽々しく触るモンやない」
親に叱られた子供のようにジストはむっと膨れる。
その顔が可笑しかったのか、彼はくくっと笑いを漏らす。
「随分と大人げない王子やね」
「少年心を大切にしていると言いたまえ」
ジストの不満を聞き流し、メノウは銃のパーツを丁寧に外しながら磨いたり拭いたりと手元を動かし始める。
「なぁ、姫さん。本当にさっきの奴の事知らん?」
銃の手入れを観察していたジストは、首を捻る。
「まったく心当たりがない。彼は一体何の用事があったんだ・・・?」
「そんなん、姫さんの暗殺に決まっとるやろ」
「暗殺だって?」
初めて気が付いたとばかりに目を丸める彼女に、彼は呆れて頭を押さえる。
「それしか考えられへんやろ・・・。
追っ手の1人や2人は軽いとな。さっきまで誰も来んかったんがむしろおかしい思うてたっつーに」
「では、君はあの者が現れるのを読んでいたと・・・?」
「おびき出すにゃ、あの森は都合よかったさかい、ね」
そう言う彼は煙草をちらつかせた。
「君はなかなかの愛煙家のようだが・・・」
「自然の中での煙は目立つ。出てくる煙も、ニオイもな。
あんだけ入り組んだ森の中、こっちを追いかけとる連中がおるんなら、そんなわかりやすい目印に気付かん訳ない。
もっとも、気付いた上であえて見ぬふり、なんてのもあるかもしれんけどな」
「そんな意味が・・・」
メノウと出会ってたかだか数日とはいえ、ジストには彼が何を考えて動いているのか未だに掴めない部分があまりにも多かった。元々彼にそこまで感情表現があるわけでもないが、その裏で張り巡らされた考えをいざ言葉として聞いてみると、経験の深さがひしひしと伝わってくるようだ。
「もう遅い。さっさと寝て、早起きせぇよ。
今のうちにぐっすり眠っとけ。次にいつベッドで寝られるかわからんぞ」
「わかった。では休ませてもらう。
おやすみ」
おやすみ、という返事を聞くより先に、ジストはあっさりと深い眠りの中に落ちて行った。
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