会釈する者に目もくれず、コーネルは広い廊下を足早に歩いていく。
あぁ、まただ。とすれ違う従者達はため息を吐く。コーネルは昔から気難しく、短気だ。そして、今のように険しい面持ちの時は、決まって不機嫌なのだ。
そんな状態の王子の前に彼の姉が現れると、ピリリと空気が張りつめる。
「コーネル、どこへ行くのかしら?
騎士団の詰め所は反対方向よ?」
王子の行く手を阻んで前に立つ、彼と同じ橙髪の若い女性。腰に手を当て仁王立ち、藤色の瞳で見透かすように弟を見据える。
「どけ」
「まず質問に答えなさい」
「貴様には関係がない話だ」
「早馬をひったくってミストルテインまで行くつもりね?
そうはさせないわよ」
「どけと言っている!」
姉の肩を突き飛ばそうと伸びた右手がかすめ取られ、気が付けば後ろ手に固められていた。
その素早い体術には、周囲で野次馬をしていた使用人達も感心する。
もっとも、一国の王女がここまでの体術を身につけた原因が、今まさに彼女の腕の中で技を決められているわけだが。
「放せ、リシア!」
「あんたねぇ、立場弁えてる?
18年王子をやってきてまだわからないのかしら。
ジストが心配なのはわかるけど、あんた1人が探しに行ったところで何になるっていうのよ」
「ただ黙って待っていろと?!
貴様ら、揃いも揃ってすぐそれだ。見縊るなよ。俺ならば・・・――」
「心配なのは皆同じ。
だから、今ここで、お父様の心配事をこれ以上増やさないで欲しいわけ」
「・・・くっ・・・」
弟の抵抗が弱くなったところで、姉――リシアは、捕まえていた彼の腕を解放する。
姉に対して睨みを利かせると、コーネルはただ黙って反対方向へと踵を返した。
良くも悪くも、コーネルは行動的だった。それは時として誉れに値し、時として更なる混乱を招く。
血を分けた弟の気持ちなど、リシアには痛いほどわかる。だが、その未熟な考えを何とか制する存在もまた必要なのだった。
取り分け、今回は唯一といってもいい彼の友人の危機。あのコーネルが黙っているはずがない。
今は素直に退いたが、これ以上事の進展が見られないとなった時に彼がどんな行動をとるのか。そんな近しい未来を想像してリシアは肩をすくめた。
-18-
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