「ミストルテイン城が落ちた?!
それは本当なのですか、父上」

「あぁ・・・相違ない。
まだ詳しい事はわからないが、定期連絡の兵からそう伝達があった。
王都の8割は壊滅、王城周辺からは多くの遺体、そして・・・城の残骸の下から、我が友ミストルテイン王が」

壁がほとんど窓で、広々とした部屋。高い天井には神話の絵画。
書類が積み上げられた銀の机の上で手を組む男は、目の前に立つ青年から目を外して手元をぼんやり見つめていた。

「ジストは・・・。
・・・ジストの遺体は、見つかったのですか」

橙の髪に海色の鋭い両眸をしている青年は、所在無げな視線の男の顔を真っ直ぐ見ていた。

「見つかったのは王の遺体のみ。ジストはどこへやら・・・。
言いにくいが、最悪の事態も考えておかねばならぬ」

「最悪、の・・・?」

「アクイラ王家の断絶、緑の国の崩壊、だ」

青年は半歩ほど後ずさりしたが、すぐにダンッ!と乱暴に机を叩いた。

「俺は認めない。あいつはこんな事で死ぬような奴ではない。そうでしょう、父上。
まだ遺体は見つかっていないんだ。どこかに逃げたかもしれない。
父上、俺にご命令下さい。直々にミストルテインへ偵察に行けと」

「ならぬぞ、コーネル!! 貴様何を考えておるッ!!
・・・お前はこの国の跡取りだ。ミストルテイン壊滅の原因もまだわからない今、そう易々と王子を派遣できるものか!!お前の身に何かが起きたらこの国も終わるのだぞ!!」

ピシャリとした雷のような怒声に、コーネルと呼ばれた青年は不機嫌そうに舌を打つ。

「黙って見ているなんて・・・」

「お前の行動力は良し悪しの差が激しすぎる。
この件については、わしが何とかする。お前は騎士団の方の偵察へ行け」

「・・・承知」

言葉とは裏腹に、あからさまに不満そうな態度でコーネルは背を向ける。
バタン!と乱暴に扉が閉まると、一国の主は深々とため息をついた。

「おお、わしには友を悼む暇も与えられぬというのか・・・。
我が息子よ、その正義感は諸刃の剣なのだぞ・・・」


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