比較的乾いた場所を探し当てた。
そこには枯れた大木があり、木の根元がぽっかりとあいて空洞になっていた。
小柄な人間1人くらいなら入れそうな空間が広がっている。



その木の手前で、メノウは拾ってきた木材を広げ、手際よく組み立てていく。

「いつもはこんな面倒な事せぇへんけど・・・せっかくやし覚えておき。
ほれ」

そう言う彼からジストに手渡されたものは、奇妙な石と金属片だ。

「なんだこれは?」

「本でくらい見た事あらへん?
それ使って、この薪に火ィ付けんねん」

「あぁ、わかったぞ!
打ちつけて、飛んだ火花で着火するアレだな?!」

「そ。
これから野宿も増えるやろし、慣れときや」

「うむ! そういう事ならば・・・」

カチ、カチ、とジストは火打石を打ちつける。
しかし何も変化が起こらず、首を傾げた。

「貸してみ」

彼が数回石を打ったかと思えば、小さな火花が薪へ飛ぶ。軽く空気を送り込むとすぐに火種は炎へと変化した。

「これは・・・!」

「いつもは魔法でさっさと火起こしするんやけどね。
この辺の人種は炎に慣れてへん聞いたが姫さんもそうか?」

「その通りだ。緑の国は風を信仰している。故に、風の魔法を操る者が多い。
炎が使えたら、便利だろうな・・・」

炎のような色の髪。ジストは初めてメノウを見た時にそう思った。
という事は、彼は火を崇める赤の国近辺の人種だろうか。

「少し、聞いてもいいだろうか?」

改めて声をかけると、彼はチラリと目線だけこちらにやる。

「君のような赤い髪は見た事がない。
君は一体どこからやってきたんだ?」

他意のない疑問だったが、それを聞いた彼の表情が若干強張ったような気がした。

「どこでもえぇやん。関係あらへんやろ?」

「そ、それは、まぁ、そうなのだが」

つい怯んで、その疑問をなかった事にする。
話したがらないのだから詮索するものでもないのだろう。さすがのジストも無神経に掘り下げるわけにもいかず、そわそわと落ち着かなさそうな面持ちのまま次の話題を探そうとしていた。
彼もまたそれを察したのか、ふぅ、と息を漏らす。それ以上を聞かれなかった事に安堵したのか、会話の空気を淀ませた事に対する若干の反省か。
何とも言えない雰囲気の居心地の悪さからか、彼はぶっきらぼうに器を突き出す。ジストがそれを受け取って中を見てみると、琥珀色の汁の中に、柔らかそうにほぐれた肉と野菜が浮いていた。

「王族に干し肉なんざ食わせて、処刑もんやな。
ま、堪忍してや」

「いいのか?」

「毒なんざ入ってへんから。適当に流し込んで、もう寝ろ。朝早いで」

「あ、ありがとう・・・。いただくとする」

肌寒い空気の中でのその料理は身に染みる。
ジストが今まで食べた事のある料理の中では一番粗末なものではあるが、高級な物とは違った何か特別な味を感じた気がした。


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