「どんな弱みを握れば彼がこんなにあっさりと意見を変えるのかしら」
ロシェの予想に反し、ジストはメノウを連れて1階へ降りてきた。
周囲を窺い、メノウは声を潜めてロシェに尋ねる。
「お前、あの指輪見たんやって?」
「見たわよ。不用心にも向こうから見せてきたわ。
知らないフリをしたけれど。面倒だし」
「普通に考えておかしいやろ・・・。
2大貴族の娘があの指輪を知らんなんぞ」
「気が付いていないみたいよ、あの子」
キョロキョロと興味深そうに施設内を見渡しては目に入った傭兵に意気揚々と声をかけにいっている一国の王子の姿。分け隔てなく自ら人と関わりに行く様は堂々としていて実に逞しい精神ではあるが、同時に世間知らずな自分を振りまいているのと同義であった。
「・・・貴方、苦労しそうね。
王子の教育も追加料金かしら?」
「はっ。・・・別にえぇよ。後で本人からふんだくってやるわ」
密談を終えた2人は離れ、そしてメノウはうろうろと歩き回るジストの首根っこを摘まみ上げる。
「忙しないのう。
ほれ、すぐに出発するで。挨拶まわりも程々にせぇ」
不満そうにするジストの相手をしていた傭兵達は苦笑いで2人を見送る。
「いいなぁ、王族の護衛か。褒美はたんまりだろ?」
「俺達はこれから王都の救援だぁ。
ほとんどボランティアだぜ? ったくよぉ」
「き、君達!! 王都の民や城の者の命を何だと・・・!!」
「あーあー、関わるな関わるな。どうせそいつらにゃわかりゃせんわ。・・・じゃあな」
「おう。せいぜい死ぬなよな」
ガハハ、と呑気な笑いを背に受けつつ、ジストを摘まむメノウはそのまま施設の外へと出た。
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