カウンターのところに再び戻ってくると、ロシェは傍の椅子にジストを座らせる。

「ほんの少し待っていらして?
貴方に紹介したい人がいますの。もうすぐ帰ってくるから・・・ほら、噂をすれば」

ロシェの視線の先をジストが見ると、施設の扉を開けて入ってきた長身の人物が目に入った。

「お帰りなさい、メノウ。
朝帰りからいきなり何だけど、ちょっと頼まれてくれないかしら」

ロシェはすぐにその人物を呼ぶ。
背に大剣を背負った、炎のような赤い髪のその人物は、面倒そうにサングラスの下の鋭い瞳でこちらを見る。

「ちったぁ休ませろ。人使い荒すぎやでお前」

聞いた事のない訛りだった。威圧的な低い声でロシェを責めるが、当の彼女は何食わぬ顔で彼に歩み寄る。

「頼めるのは貴方しかいないわ。
どう? 一仕事、引き受けてみない?」

「内容による」

「この王子様の護衛よ」

突然ロシェに腕を引っ張られて慌てて立ち上がったジストは、目の前にいる男を見上げた。
彼はかなり背が高い。城の兵士と同じか、それ以上だろうか。右腕の大きな十字の古傷が目を引いた。

「王子?」

「そう。緑の国の王子様。ジスト殿下よ」

「何で王子がこないなとこおんねん」

「詳しくは後で話すわ。とにかく、事は急ぐのよ。
王族の護衛任務なんて、そこらのヒヨッコ共に任せられるわけがないもの。貴方しかいない。
しくじったらこのギルドの存続に関わるかもしれないのだから、より確実な傭兵に頼みたいの」

「いくら?」

「後払いになっちゃうけどいいかしら?」

「はぁ? 冗談抜かせ。
信用なるか、んな話」

「王子様よ?
無事任務が終われば、報酬はどれだけ入るか・・・。
ねぇ、ジスト様? んふふ」

「う、うむ。
引き受けてくれた暁には、王都に戻り次第、君に確かな地位と土地を授けよう」

ロシェに促されるままそう言うが、男は苦々しい顔を一切変えなかった。

「おい坊主。何だか知らんが、そんなんで他人が動くと思うなや?
他当たりぃ。もっと気前のいい連中が他にもおるやろ」

無愛想にそう言うと、彼は背を向けてさっさと二階へ行ってしまった。





「あらあら。タイミングが悪かったかしら。疲れてるところにこんな話、失敗ね」

「一体何者なのだ?」

「彼はメノウ。いくつかのギルドを渡り歩いているベテラン傭兵。
貴方、とっても幸運。あの人、1つのギルドに1日、2日しか滞在しないから、滅多に会えないわ。
彼、多分次は青の国のギルドへ行くだろうから、ついでに王都まで連れて行ってもらえたら怖いものなしって感じなのだけれど」

お金が、と彼女はぼやく。

「お金に煩いから、確実な仕事しかしないの。
賭けみたいなこの案件じゃ釣れないかしらね、んふふ」

「そんなに君の信用に値する人物だと?」

「そうですわね。彼はこのギルドでも長い。つまりわたくしとの付き合いも長い。
だからと思ったのだけれど・・・駄目そうね。他を当たりましょう。
といっても候補がいないのだけれど」

「私が・・・自分で頼んでみよう」

「誠意を持って?
んふふ、そんなに優しくないですわよ、彼」

ジストはあの男が消えた二階への階段を上る。
上り終えると、意外にもすぐそこに彼はいた。


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