「申し遅れましたわね。わたくしはロッシュ=ヘルバ=アルカディア。ロシェと呼ばれていますわ。このギルドの長ですの。
そして、坊やが本当にアクイラの血族だというのなら、アルカディアという姓に覚えがあるはずですわ」

もちろん知っていた。
アルカディア姓は、アクイラ王家に最も近しいと呼ばれる2大貴族の片方だ。つまりロシェはその貴族の出身だというのだ。貴族の1人がギルドを経営しているとは思ってもみなかった。

「それでは訂正しますわね、ジスト様。
本当は尊敬もしていない相手に様付けなんて好みではないのだけれど、どこでどんな刺客を潜ませているかわかったものじゃないですから。 んふっ」

王子と認めた上でも、その物言いを変えるつもりはないらしい。

「それで、もっと詳しくお聞かせ願えるかしら。
何分、まだわたくしの元には王都壊滅の報などきていませんもの」

「やはり、か。
私は使者として来た。慣れない大役故に、既に別の者が使者として来たかと思っていたのだが・・・」

ジストは昨夜の事を全てロシェに話した。
説明している間、意外にもロシェは口を挟まずに聞いていた。手元でペンを走らせながら、時々その得体の知れない笑みから小さく相槌を返す程度だった。

「なるほど、なるほど。
それではジスト様はこれから青の国の王都を目指す訳ですのね?」

「そうだ。
・・・しかし、情けない事にその手段も道のりも、何もわからない」

「貴方、今持ち合わせはあって?」

急にロシェは懐事情に興味を示した。
ジストは黙って首を振る。

「私は金銭を持った事がない。
今手元にあるのはこの指輪と、この細剣のみだ」

「これだから王家様はいけませんのよ。この世の中、何をするにもお金ですのよ、お金。
お金がなければ食べる事も寝る事も出来ない、それがこの社会。庶民はそうやって暮らしているのです」

返す言葉を失っていると、不意にロシェは席を立つ。

「まったく、王家の跡取りが護衛の1人も付けずにカレイドヴルフまで生きて辿りつこうなんて、不細工ジジイがこのわたくしと結婚するくらい、天文学的な数値で有り得ない話ですわよ。おほほ」

書類を抱えたロシェは、ついてくるようジストに促す。


-09-


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