不毛な道のりに1つの変化が訪れたのは、そろそろ空が白み始める頃だった。
緑の屋根がぽつんと、草原の向こうから顔を出した。植物しか見えなかった道で、久しぶりに現れた人工物だ。
夜通し歩き続けていたジストはもはや真っ直ぐ歩けないほど疲弊していたが、その目印が彼女を奮起させる。やがて進める足は段々と速くなり、ついに駆け出す。
港町であるバルドルという街は、漁の都合で朝が早い。次々に煙を吹かした船が海原を滑っていく。市場では朝市の準備に追われて、漁に出た男性達の代わりに女性達が忙しそうに行き交っていた。
門では今にも転寝をしそうな顔の門番がぼんやりと草原を眺めていた。その中で、1人の者がこちらへ向かって走ってくる。夢と現実の区別がついていないのか、と目をこすった兵士の視界に映ったのは、どこからどうみてもこの国の王子である若者の姿だった。
熱心な王家信者もいたものだ、と寝ぼけた頭で考えた兵士は、億劫そうに姿勢を正した。
「すまない、ここを通してもらえるか」
「身分証明を・・・どうぞ」
事務的に言うと、若者は困ったように視線をうろつかせた後、思いついたように手を差し出してくる。
「この指輪が、その証明にならないだろうか」
何度も目をこすった。しかし紛れもない、それは国王が持つ指輪そのものだった。刻まれた王家の紋章、希少な金をあしらったリング。模倣でもここまでの光沢は表現できないだろう。
「あ、貴方様は・・・?!」
「王都ミストルテインより参った。
ジスト=ヴィオレット=アクイラだ」
兵士の眠気は飛んだ。
慌てて敬礼し、用件を聞こうと身を乗り出す。
「ジスト殿下!!
一体どうなされたのですか?! まさかお一人ですか?! 城の従者は?!」
矢次早の質問に答える余裕もなさそうに、ジストは告げる。
「時間がない。すぐにギルドへ案内してもらえないだろうか。
ギルド長に話がある」
深刻な王子の面持ちに深く聞く気はひき、兵士はジストを連れ街の中へと入る。
-07-
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