外に出て初めて、あの地鳴りのような振動の原因を知る。
城の上に、城を凌駕する大きさの赤鱗のドラゴンがいた。城を、まるで止まり木のように踏みつけ、上部の階を完全に潰していた。バラバラと壁の破片がなだれる。ドラゴンは、灼熱の炎の息を白い牙の隙間から漏らしていた。
(ドラゴンが、本当にいたなんて・・・)
あまりの出来事の連続で、ジストは混乱していた。
握っている指輪に目を落とせば、それは父王がずっと身に着けていたもの。託された細剣は護身用だろうか。柄の形状を見るに、城で宝器として祀られていた宝剣ミストルテインである事がわかる。城の、果ては王都の壊滅を、レムリアはその聡明な頭脳で先読みしたのだろうか。剣を腰に下げ、ジストは再び城の上を見上げる。
ドラゴンはゆっくりと辺りに目をやり、気紛れに炎を吐いては王都を消し炭としていた。
許せなかった。
あのような魔物に意図があるとは思えない。それが、何故よりにもよって今宵、しかもこの王都、この城を標的としたのだろうか。
広場には多くの人が集まっていた。その多くが、無慈悲な炎に焼かれてその命を消していったかもしれない。そう考えると居ても立ってもいられなくなったが、ジストは剣を抜かなかった。
ただ静かに、この剣と指輪を託した者の言葉を反芻する。
「私が死んだら、誰が代わるのか」
ひとたび口にすると、ジストは無理やり目を背け、裏道の先にある草原を見据えた。
父は最期に残してくれた。私がこの後目指すべき場所を。
(・・・行こう。青の国へ)
指輪を自分の指に嵌め、ジストは暗い夜の道を走り出した。
-05-
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