「どうして、こんな事に・・・。
最近は調子がいいと、仰っていて、明日の祝祭も、楽しみになさって・・・」
俯くジストは、やり場のない言葉をぽつぽつと口にする。
「・・・死期を、悟られていたのかもしれません」
「レム、私は、これからどうすれば・・・」
言いかけたところで、床から小さな振動が伝わってきた。
不思議そうに周囲を見回しているうちに、ガタガタと振動が大きくなってくる。
「なっ?! 地震なのか・・・?!」
「姫様、危ない!」
ドシン!!
ガシャン!!
立っていられないほどの振動で思わずしゃがみ込む。傍の窓が割れ、ガラスが飛び散る。
ジストを庇うように、レムリアは彼女を抱え込んだ。
「レム!!」
「大丈夫です、じっとして!!」
ガタガタガタ、と数回強力な振動の後、波がひくように振動が消えていった。
「い、今のは・・・?!
窓が、こんな」
「姫様、外です。外に避難して下さい!
城の中は危険です!」
「わ、わかった!
レムも、一緒に・・・」
「私は城の者達を誘導します!姫様は先に!」
「そんな!」
「城前広場は混乱しているはず。1階の、厨房裏手からお逃げ下さい。
城の裏道に繋がっています!」
「しかし!」
「今ここで姫様の身に何かがあったらどうするのですか!!」
悲痛な叫びに、ジストはハッとする。
そうだ。私が今ここで死んだら、どうなってしまうか・・・――
「・・・わかった!先に行っている!」
ジストは素早く立ち上がると、階段を駆け下りた。
城の中は大混乱だった。
エントランスの天井にあったシャンデリアや壁に飾られていた歴代の王の肖像画が落ち、使用人だけでも既に多くの怪我人が出ているようだった。
正面玄関の前にある大階段を駆け下りると、すぐ上から声がした。
「姫様!これを!」
レムリアが手に持っていたものは指輪と、鞘に収まった細剣だった。
「これを持ってお逃げ下さ・・・」
二度目の大きな振動が襲う。その拍子にレムリアは階段を踏み外した。
「レム!!」
「逃げて・・・!」
指輪と剣が放り投げられる。それを見事にとらえて見せたと同時に、振動で投げ出されたレムリアの体が床に強く叩きつけられる。
「レム・・・!!そんな、・・・」
動かなくなった彼の体。しかし駆け寄る暇もなく揺れが酷くなる。
何も考えず、ジストは裏道へと続く出口に走る。厨房は瓦礫の山と化しており、なりふり構わず彼女はそれを踏み越えて扉を体当たりで開ける。
焦土の臭いが夜風を汚していた。
-04-
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