海が見えるお洒落なカフェ、という景観よりも新鮮な魚介類がふんだんに使われたメニューの数々にハイネはご機嫌だ。
食べ物が無限に吸い込まれていく様子をケイトは震えながら見守っていた。
そういう彼の方はといえば、ハイネが延々と食べている時間を潰すようにコーヒーを何度もおかわりしている程度である。
さすがのハイネも我に返ってケイトが気遣っているのではないかと尋ねてみたが、彼は「好きなだけ食べていいよ」と変わらず笑っていた。

「ここはコーヒーのおかわりが自由なんだ。だからよく来るの。
いつもは一人だから、さすがにコーヒーだけで居座るのも悪いかなって適当に頼むんだけどね。
だから今日は僕の代わりに思いっきり食べていいよ」

「じゃあ遠慮なく!」

そして言葉通り遠慮なく満腹になったハイネを連れて店を出ようとしたケイト。
その手前、ふとハイネに止められた。

「ケイトさん、ここ持ち帰りもできるんやね!
アイレスくんにお土産買ってこーよ」

「え、アイレスに?」

「だってうちらだけ外で食べちゃって、不公平やん?」

「うーん……? そう?
まぁ、君がそう言うなら、たまにはいいかもな。
あの子まともに食事とらないから」

「アイレスくんって何が好きなん?
甘い物は好きかな?
うちの師匠のカイヤ先生はすっごく甘党なんよ。
いちばん好きなのはプリンって言ってたかな」

「それじゃあプリンでも買っていってみる?
実は僕もあの子の好みは知らないんだよね。
叔父さん失格だよ」

カフェでプリンを買って外に出ると、少し日が傾いていた。
そういえば、ここは水の国――ハイネの世界で例えるなら青の国に近いようだが、あのうんざりするような蒸し暑さがここにはない。
むしろ非常に快適な気候だ。
眩い太陽を気にするまで気付かなかったほどである。

「ここ、暑くもないし寒くもないなぁ、
今って何の季節なん?」

「季節?
どうかなぁ。日付的には……たぶん冬?」

「冬? しかもたぶんって……どういう事?」

「そっか。まだその辺りは話してなかったね。
この世界に“季節”はないんだ。
ずーっと同じ気候、気温。
そりゃまぁ雨が降ったりはするけど、雨が降る日はあらかじめ決まっているんだ。
全部人間に管理されているんだよ。
だからここでは大規模な自然災害はここ十数年起きていない。
平和でいいよ」

「……そ、そうなんだ」

そうは言うが、ハイネは少しだけ疑問だった。

(確かに、大雨も大雪も干ばつもないなら、みんな嬉しいかもしれんけど……
ほんまにそれって喜んでいいやろか……?)

しかし道行く人達は揃って幸せそうに笑っている。
暑くて辛い事も、寒くて震える心配も、ここにはないのだ。


アイレスの住処まで戻る短い帰路の中では、ハイネはその是非を出せなかった。



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