ケイトがいう近くの街というのは、キルフという名前の賑やかな港町だった。
元世界でいう、青の国のニヴィアンやベディヴィアという街に似ている。
街中は白い煉瓦の街道が規則正しく張り巡らされ、水を贅沢に飾り立てる噴水がそこかしこに点在している。
「ここは水の国ウェナンの主要都市のひとつ、港町キルフ。
世界中の貿易の要でね。昔はいわゆる貿易船がよく出入りしていた。
今はもう海路ではなく空路が運送の中心だから、ハイネ君が想像する『港町』とはちょっと違うかな?
空の箱舟の港。ほら、あれが『空港』だよ。飛空艇が発着する場所だ」
ケイトが指さした先の建物から、飛空艇がゆっくりと飛び立ったり降りてきたりしている。
まるで機械のように、一定の間隔で何隻もの飛空艇が往来しているようだ。
広い街道をケイトに付き添われながら歩く。
見るもの全てが新鮮で、ハイネはとにかくワクワクして堪らなかった。
学者の好奇心もそうだが、何もかもが面白かった小さい頃の気持ちが蘇ってきたようでもある。
そんな風に気を取られていたハイネは急にケイトから「危ない」と手を引かれた。
その瞬間、後ろから見慣れない機械が走り抜けていった。
「な、なにあれ!?」
「あれかい?
あれは『魔力四駆』だよ。
魔力で動く……そうだなぁ、君でもわかる乗り物というと……馬車みたいなもの?
馬は使わないけどね!」
「の、乗り物!?
そういえば人が乗ってた気がする……」
「最近急に普及し始めた移動手段でね。
最初に設計したのは実は僕なのさ。ふふん」
ケイトはそう言って得意げな顔をしている。
一瞬流してしまいそうになったところで、「え!?」と驚いた。
「僕は機械工学が専門でね。結構有名人なんだよ、実は。
まぁ、だ~れも興味ないのか街中でサイン求められる~とかはないんだけど」
ケイト・フィンスターニス。
そういえば元世界のカイヤが飛空艇設計者の名として挙げていた人物だ。
「もしかして、あの飛空艇を設計したケイトって人、まさか」
「へぇ、君知ってるんだ! 嬉しいなぁ!
そうそう、飛空艇を造ったのも僕。
やっぱりアレこそがいちばんの大発明だったかな。
飛空艇で世界の物流がひっくり返ったようなものさ。
……ちょっと自画自賛が過ぎるかな?」
「ううん! すごいと思う!
そんな人と会えるなんて、うちめっちゃツイとるわ!!」
満面の笑みでそう答えたハイネに、ケイトは一瞬驚いたように目を丸くし、そして微笑む。
「君は確かにずっと昔の文明から来たのかもしれないけど、僕らが遠い昔に忘れてしまったものを君は持っているのかもしれないなぁ。
君みたいな人がアイレスの傍にいてくれたら……」
「え?」
「ううん! なんでもない!
お腹空かないかい?
僕のお気に入りのカフェがあるんだ。
もちろん僕が奢ってあげるよ!
僕はお金持ちだからね、……なんちゃって!」
「行く!!」
元気よく返事をするハイネ。
ケイトは喜んで近くの店へ案内してくれた。
――彼女の胃袋に冷や汗をかかされる事になるとは知らずに。
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