「……ゴホン。俺はアイレス・フィンスターニス。
通信でも名乗りましたが念のため。
貴女が『ハイネさん』で間違いないですか?」
「は、はい……。さっきはごめんなさい……」
「もういいです。蒸し返さないでください。まったく」
ハイネを不可抗力で体を張って受け止めた人物、それが件のアイレスだった。
通信した時の声で男性だとわかってはいたのだが、その容姿には心底驚かされた。
なんとカイヤそっくりなのである。
確かに男性だ。
長身痩躯で、身形は整った学者風である。
紺色の髪はどこかクレイズを彷彿とさせるが、薄暗い室内でもギラリと光る黄緑の瞳はハイネの記憶の中には存在しない。
このように、ハイネが知るカイヤとは違うのだが、顔立ちは寒気がするほど瓜二つなのだ。
青い顔で微動だにしないハイネと不機嫌そうなアイレス。
その微妙な空気を散らすように、もう一人の人物がヘラリと笑った。
「いや~、ビックリした。
扉開けたら女の子に馬乗りされてるんだもの」
赤紫の髪を肩まで伸ばし、金と赤の瞳を細めて頬杖をつく白衣の青年だ。
こちらはアイレスより随分と人懐こそうな表情である。
この人物の顔立ちはそう、ハイネの記憶から例えるならばクラインそのものだ。
「あぁ、ごめんごめん。名乗ってなかったね。
僕はケイト。ケイト・フィンスターニスだ。
アイレスの叔父さん。よろしくね、ハイネ君」
「は、はい……」
未だ状況が飲み込みきれていないハイネだが、その戸惑いを察したのか、アイレスは淡々とこう述べる。
「先程貴女は俺を『カイヤ』と呼びましたね?
まぁ、間違いはないです。
『カイヤ・レーゲン』という人物は、この近辺の世界ではおよそ50%の確率で俺と同一人物として存在する『類似並行人格』です。
類似並行人格って知ってます?
そもそも貴女の文明レベルはどの程度なんですか」
「ちょ、ちょっと待って、わけわからん!
まずうちが今どこにいるか、どんな世界に来たのか教えてや!!」
外へ放り出されていた今までとは違い、こんなよくわからない薄暗い密室で目を覚ましたのだ。
五感から得られる情報が曖昧で、ハイネはパニックに陥っていた。
「独身の僕がいうのもアレだけど、アイレスはせっつきすぎだよ。
そんな圧力でいたら女の子怖がっちゃうでしょ。
……あぁそうだ、ちょうどいい! 窓を開けよう!
そろそろ換気しないと、ホコリっぽくて敵わないや」
ケイトはそう言って立ち上がり、長らく閉ざされていたような窓を思いきり開け放った。
うわ、と手をかざしたアイレスだが、ハイネは窓の向こうの景色に目を奪われ、思わず駆け寄ってしまった。
「……船が……飛んどる……」
――晴れやかな青空の海を、何隻もの『飛空艇』がゆったりと泳いでいたのだ。
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