西のクルトから数日を経て東のカルル村に到着した一行。
村に到着した日は、しんしんとか細く粉雪が舞っていた。
視界が悪くすぐに船を出せないとなり、一行はカルル村で一泊する事となる。
皆で過ごす最後の1日だ。
前の世界の時を思い出し、ハイネは目に焼き付けるように仲間達を見渡す。
「前は、ロクにお別れもせんで出発しちゃって。
それでその後すごく……すごくいろいろあったみたいで。
正直、ずっと後悔しとる。もっとちゃんとお礼を言いたかったとか、お別れしたかったとか……。
だから、今回は悔いがないように出発したい。
寂しいけど、ちゃんとお別れさせてな」
暖炉の前でお互い向かい合い、ハイネは一人一人の目をしっかりと覗き込んだ。
「まず……カイヤ先生。
めっちゃお世話になりました。懐中時計直したり改造したり、すっごく助かりました。
うち、元の世界ではカイヤ先生の弟子なんやけど、ここでもお世話になりっぱなしで……」
「いいんです。私も嬉しかったですよ。ここの私は弟子を取っていないので、何だか新鮮で……でも懐かしくて。
ハイネさんには父の事で救われましたから。これくらい何て事ないですよ。
他の世界の私もきっとハイネさんに協力したがると思います。
だから、迷った時は私を頼ってくださいね」
カイヤに頭を撫でられ、ハイネは微笑む。
次に見据えたのはアメリだ。
「アメリ、出会ったのはホント偶然だったけど、友達になれて嬉しかった!
いっぱい助けてもらったよね。アメリのお陰で戦争も防げたし……。
お父さんお母さん、グランくんにもよろしくね」
「私こそ、初めての友人が君で嬉しいよ。
世界が違っても私達は友人だ。君の長い旅路の幸運を祈っている。
またいつか奇跡が起きたら、会いに来てくれたまえ!」
アメリとは固い握手。
彼女もまた、出会った頃よりも力強い手をしていた。
「シエテは……もう心臓に悪い思い出ばっか!
うちの事攫おうとするし、おでこに穴開くし、手足吹っ飛んじゃうし!
ホムンクルスだからってテキトーに危ない事したらアカンで!
……でも、うちがおかんに会いに行った時に付き添ってくれたのは嬉しかったかな」
「わははっ! 言われてみればボクやばいとこばっかじゃん!! ウケる!!
ボクもねぇ~、ハイネと一緒に旅出来て楽しかったあ!!」
無邪気に笑う彼。ホムンクルスに今生の別れが通じているのかは相変わらずよくわからない。
そして彼の隣で涙目のイザナにうっかりもらい泣きしそうになる。
「ミー、お別れってホントにニガテです……。
もう会えないのツラいです」
「大丈夫だよ! もしかしたらまた間違えてこの世界来ちゃうかもだし!
イザナは笑顔が可愛いよ! 笑って!」
「うう、ゼンショしますぅ……」
最後に、ヒューランに目をやる。
目が合うと、彼は少し視線を泳がせてから微笑んだ。
「本当に、もうお別れなんだな。
長かったような、短かったような……。
ヒスイ共々、世話になった。
俺の今があるのはハイネのお陰だ。感謝してもしきれない」
「こちらこそ!
ヒューランにはたくさん守ってもらったよ。
どうもありがとう。
ヒスイ兄ちゃん、きっと今のヒューラン見たら褒めてくれると思う。
……素敵な王様になってな」
「あぁ、もちろん。心配するな。ここは大丈夫だ。
お前が守ってくれた世界だ。これからは俺が守る」
一通り言いたい事が言えたのか、ハイネはホッと一息吐いた。
これでもう、思い残す事はない。
翌日の出発を控え、カルル村の夜は穏やかに更けていく。
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