体が熱い。
燃えるような真っ赤な視界。
掻きむしりたくなるような胸の痛み。
しかしその手は自らの胸ではなく、周りにある器材を衝動のまま叩きつけていた。
己が同じ状況になって、ようやく理解した。
思考と行動が噛み合わない。
かつて『私』を抱きしめようとした『あの人』も、同じ世界を見ていたのだろう……――
「カイヤ先生!!」
あれ、この声。
なんでだろう、聞き覚えがある。
出口のない真っ暗な場所で、一点だけ光っているような。
この子なら、助けてくれるだろうか。
でも私は、「助けて」なんて言えない。
助けて欲しかったに決まっている。
差し伸べられた手を取りたかった。
でも振り払ってしまった。
一緒にいてくれると、言ってくれたのに。
(お兄ちゃん、私……本当は……)
(ずっと傍にいて欲しかったんです)
(でももしそうしたら、私は……)
(きっと、お兄ちゃんの事を永遠に手放せなかった)
お父さん、お父さん、帰ってきて……
どこに行っちゃったの?
帰ってくるんだよね?
ボクの家族は、お父さんしかいないのに。
――血の繋がりはないですけれど、僕は貴女を妹だと思っているんです。
――だから、僕が傍にいます。
――貴女が望む限り。
――そして一緒に……先輩の帰りを待ちましょう……。
「カイヤ先生! あぁ、なんでこんな……!!
どうして!!」
「貴女もご存じでしょう。
私の誘いを拒絶したならば、“こうなる”と」
淡々と語るレムリアの視線の先に、真っ黒な巨体。
ミストルテインで見たあの化け物とよく似た、1頭のケモノ。
「美しいですね。実に美しい。
そして愚かだ。
所詮淘汰されるだけの存在。
そして貴女は――間に合わなかった」
ヒトの体を奪われたケモノは、悲鳴のような咆哮を上げた。
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