なんだかこのクラインは様子がおかしい。
前を行く白衣の背を睨みながら、ハイネは必死に違和感の正体を探っていた。
このクラインという人物、ハイネには会う度に立場や性質が異なって見えるのだ。
それはレムリアも同じだが、彼とは違うわかりづらさだ。
ハイネの元いた世界のクラインは、冷徹な研究員の一人だった。
前の世界のクラインは何故か魔法学校の教授をしていて、その人格は限りなく“一般人”だったように思える。
今目の前にいるクラインは、どうなのだろう。
一度とはいえ、ハイネに刃を向けた男だ。
恐らくは元世界の彼に近いのだろうが、先ほどの“問い”が妙に引っかかる。
「クラインさんは、“旅人”に詳しいんですか……?」
聞くと、彼は歩きながら少しだけこちらに顔を向けた。
「あ、えーと。そりゃあレムリアさんの仲間なら、きっと“うち”の事も何度か見てるだろうし……とは思うけど」
「私は差し詰め『迷い人』。貴女やレムリアのように目的があって『旅』を“してきた”わけではないので」
無機質な冷たい廊下を行く途中でそう答えた彼は、おもむろに懐から小さな紙切れを取り出す。
振り返った彼はその切れ端を、ハイネに差し出した。
――謎めいた数字の羅列と、走り書きされた誰かの名前だ。
警戒して咄嗟に剣の柄に手をかけたヒューランだったが、その紙を見て手を下ろす。
仲間達には数字が何なのかはさっぱりだったが、ハイネだけはその意味に気付いた。
「クラインさん、これ……座標じゃ……」
「貴女がここを発っても、この世界は完結しない。
それどころか、この世界はこれから大きな転換を迎える。
――止められるのは、貴女だけ」
そう告げたクラインは、一瞬いつもの無表情に恐怖の色を重ねた。
思わず二度見してしまったハイネだが、彼はもう正面を向いていた。
「あの……こっちは名前ですか?
『アイレス』って。聞いた事ないけど」
その問いかけには答えがなかった。
彼はもう事務的に足を運ぶ案内人に徹しており、レムリアが待つ場所に黙って導いた。
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