ハイネ達は再び、ダインスレフの地に降り立った。
相変わらず学会の無骨な門には番をする者が待機していたが、ハイネ達の顔を見てもまた牢に放り込むような真似はしなかった。
聞けば、「君達は来客だから」だと答える。
「レムリアさんに言われているんです。
もし君が現れたらここを通していい、と」
「姑息なレムの事だ。罠ではなかろうか?」
アメリはそう言って腕を組む。
今回は弁が立つヒスイはもういない。
警戒するハイネだが、不安げに隣に立つ横顔を見上げると頷かれた。
「大丈夫だ。行こう、ハイネ。俺が絶対、守る」
その言葉は、力強くハイネを支えてくれる。
ワオ、とイザナが笑った。
「お兄、カッコいいですネ~!
まるでハイネさんのOtibiok……」
「なんて?」
「それ以上は黙れ、イザナ。
……気にしないでくれ」
何故かヒューランは真っ赤な顔をしている。
古代語がわからないその他大勢はきょとんとした。もちろんハイネ本人もだ。
何はともあれ頼りになる言葉を貰ったからには、ハイネも真っ直ぐに信じる事にする。
こちらも頷き、彼女は仲間と共に学会へと足を一歩踏み入れた。
以前は牢に直行させられたために知らなかったが、学会の施設内は一切の無駄がない無機質な灰色の壁と床に覆われていた。
意外にも出迎えがいた。
「あっ、じいちゃん! やっほー」
「この出来損ないが。気安く呼ばないでいただきたい」
クラインだ。
相変わらず冷え切った双眸でこちらを見下ろしてくる。
後ろ手に刃物でも忍ばせているのではないかと警戒したが、特にその様子はないようだ。
「あの、聞きたい事が……」
「“私の姪”について、ですか?」
その呼び名に値する人物を理解するのに一瞬の間が生まれた。
慌ててそうだと頷けば、クラインはわずかに目を細める。
「貴女にとっての“彼女”は何なのです?
ここは貴女の世界じゃない。
あの女がどうなろうと、貴女には無関係では?」
「そんな事ない!!
カイヤ先生はうちの大事な人やもん!!
例え別の世界の人でも!!」
「……心を持ち続ける“旅人”ほど難しいものはありません。
それでもなお、そうであり続けると?」
「うち、もう決めたから。
“帰る”のに何十年かかったって、うちは“うち”であり続けたい。
それが、別の歴史に関わっちゃったうちが出来る、責任を取る方法だから」
「では、貴女の言う通り、責任を取るべく私についてきてください。
レムリアは地下で貴女を待っています」
クラインはくるりと背を向け、静かに歩き出した。
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