歴史には必ず分岐点がある。
どんな末路を辿るのかを決める点です。
それは、広く見れば1つの事象が連鎖的に反応していく始点。
ですが突き詰めれば、ヒト一人でもある。
その人物が起こした行動はより大きく、強く、歴史を動かしていく。
逆に言えば、その人物が行動しなければ、いつまでも変わらぬ歴史が続いていく。
『クレイ』はその人物の一人だったのですよ。
本来であれば、歴史を、文化を、大きく動かすはずの存在だった。
「……でも、“ここ”の彼は少々未熟だったようですね。
現を抜かして家庭などを築いたものだから、自ら自分の未来を閉ざしてしまったわけです。
失うものがない人間ほど強いものはないのです。
しかし彼は、多くを手にしすぎた」
「それって……
じゃあアナタは、私や……お母さんがいたから……
家族ができたから……お父さんに……不要の烙印を押したという事ですか……?!」
「そうです」
優しげに諭すように、レムリアはカイヤの存在を否定する。
「人類の文化はどこまで行く事ができるのか、私はそれを知りたい。
ですが世界という括りは有限です。いずれ枯渇する。
同じ鉢の中で痩せこけた土ばかり食らっていては、大輪の花を咲かせる事はできないでしょう?
だから、植え替えるのですよ。
より優れた苗を、新たなる世界へ。
そして“この世界”は、新しい土です。
“貴女達”を糧にして、次の芽が大きく花開く」
「どうして、そんな事を……。
父を、あんなバケモノにしてまで……!」
「邪なる者は、いわば肥料のようなものですよ。
クレイには素晴らしい魔力回路があった。
とても良質な栄養をこの大地に注いでくれる。
何も増魔剤を投与した全ての人間があのような姿になるわけではないのですよ?
彼は選ばれた」
「ふざけないで!!」
ダンッ、とカイヤはテーブルを叩きつける。
「アナタはおかしい! 狂っている!
何のために?!
人類がどこまで行けるかなんて……そんなの知ったところでどうしようっていうんです……?!」
「神の証明、とでも言いましょうか。
神はいるのかいないのか、世界を作ったのは誰なのか。
我々は何のために生まれたのか。
人類の歴史の最果てに待つ者は誰なのか。
……理解されない事は重々承知の上です。
私とて、“何度も”否定されてきた身です」
柔らかな仕草で手を組み、身を乗り出してきたレムリアは、カイヤの泣きそうに歪む顔を覗き込む。
「……さて。
貴女はどうなのでしょうか。
私が求める“クレイ”になれるのか、はたまたただの養分なのか。
一応、お伺いしておきましょうか。
カイヤさん、貴女は実に賢く優れた人間だ。
その才能を私に預けるつもりは、ありませんか」
「あるわけない!
誰が、誰がアナタなんかに……!!」
「残念ですね。
『魔力時計』を直せるほどの優秀な人材なんて、そうそういらっしゃいませんのに……」
ひゅっ、とカイヤの心臓が縮む。
その脳裏に過ったのは、どこか懐かしい、赤い髪の少女の姿……――
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