カイヤの父は、母を亡くしてからは沈みがちだった。
彼自身も孤独だっただろう。
その中でも、彼はたった一人で娘のカイヤを育て上げた。
しかしそんな優しい父さえも、運命は連れ去ってしまった。
精一杯の悲鳴で、父に縋った。
でも父はおかしくなってしまった。
だから、“連れて行かれた”。
名も知らぬ大人達に、成す術もなく。
カイヤの背中には小さな古傷がある。
父が正気を失い、衝動のまま子を抱きしめたかった痕。
カイヤにはそれが愛だとわかったのに、他人の目には危害と映る。
『お父さん、行かないで』
『ボクもお父さんと行きたい』
だが許されなかった。
引き離された父と娘。
孤独に寄り添ってくれたのはアンリだけだった。
それでも、アンリに愛する人ができれば、彼は彼の人生を行く。
カイヤもわかっていた。
故に止めなかった。縋らなかった。諦めともいうのかもしれない。
彼が幸せならそれでよかったのだ。
その幸せがいつまでも続く事がカイヤの望みだ。
だから彼女は独りで進む。
――決着を付けるのは自分だ。
「これはこれは……。
珍しいお客様がいらっしゃったものですね」
出迎えたレムリアは薄く微笑む。
今更猫を被ろうが、カイヤには本性がよくわかっている。
「増魔剤の件で来たのですが」
「単刀直入な方だ」
呑気に茶など振る舞ってくるこの男。
シラを切るつもりだろうか。
「父に投与したのは、何故だったんですか」
向かいの席に腰を下ろしてカップを傾けるレムリア。
薄い唇がゆるりと弧を描く。
「淘汰しただけですよ」
「淘汰?」
「生産性のない存在は取り払われるのです」
どういう意味だ、と詰め寄ると、彼は異次元を見つめるような瞳をこちらに向けてきた。
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