船の客室で、ハイネは改めて仲間達を見据える。
「うちがこの世界に来てすぐお世話になったカイヤ先生って人がおって。
その人が何日か前から行方不明なんよ。
ミストルテインの近くの森で戦った邪なる者おったやろ?
アレの正体だったクレイズ先生の娘さんで。
ほぼ間違いなくダインスレフに向かっとる」
傍らでハイネの地図を広げているヒューランが、指で道を辿りながら続ける。
「カレイドヴルフからダインスレフに行くには、この船に乗って白の国と赤の国の国境辺りを通り抜ける必要がある。
現に、ほんの二日ほど前に“カイヤ・レーゲン”を名乗る女性がこれと同じ海路の船に乗ったと記録があった。
すでに向こうが二日分先に進んでいるわけだ。
追いつくには、船が着いたら馬を借りて走るしかない。
まぁ、向こうも馬に乗ったのだとしたら、結局はダインスレフでの再会になるかもしれないが。
急ぐに越したことはない。
……それでいいか、ハイネ?」
「うん、おおきに。
カイヤ先生、無茶しとらんといいけど……」
たった一人であの場所に向かったのだとしたら。
あのクレイズの忘れ形見なのだ。
レムリアが彼女を利用しない手はない。
「ハイネ、そのカイヤという女性は、確か君の世界での師匠でもあったか?」
「そう。うちがこうやって異世界を旅するきっかけになった機械を作った人なんよ。
ほんまスゴいねんで!
うちと同い年くらいの頃にはもう特進課程におって、今や二十歳にして最年少の“博士”!
うち、カイヤ先生に憧れて錬金術科に入ったんよ~」
「へぇ~、じゃあその人ならボクみたいなホムンクルスも作れるのかな?!」
イザナの膝枕でくつろぐシエテがそんな事を口にする。
「ほら、ハイネっていつかは元のセカイってやつに帰るんでしょ?
そしたらさ~、ボクみたいなホムンクルス作ってってその人に頼んでよ!
ひょっとしたら、ボクもハイネのセカイに住めるかも!」
「ワォ! それはいいアイディアですネ!
ミーのホムンクルスも作れるでしょーカ?
他のセカイ、ミーも見てみたいデス!!」
「イザナはともかく、シエテのような殺人兵器を作りたがるわけがなかろう!
……しかし、そうか。ハイネとも別れが近いのだな。
だが世界を渡るための魔力の補充はどうするのだ?」
それな、とハイネは腕を組む。
「前の世界だと、ここでいう学会みたいな施設に魔力をわけてもらったんやけど……
今回は望み薄やし、どうしよ。
何百、何千人分もの魔力を確保できる心当たりとか、みんなある?」
「シエテ、お前無限に魔力が作れるホムンクルスだろ?
ハイネのためになんとかしてやれないのか?」
「ウーン、やってもいいけど、ボク一人だし。
別に超高速で魔力作れるわけでもないし。
めっちゃがんばっても、溜まるまで2年くらいかかるんじゃない?」
「じゃあ、マリョクたまるまでこのセカイにいればいいデスヨ!
……だめ?」
「そうしたいのは山々やけど、こっちも急がなあかんからなぁ」
自分一人の旅だったら、その手もよかったかもしれない。
だがハイネの帰りを待つカイヤがいるし、悠長にしていられるほど元の世界のクレイズの容態が安定しているわけでもない。
「あ、そーだ!
じいちゃんにお願いしようよ!」
「じいちゃん……って、クラインさんのこと?」
「そ!
じいちゃん、今は所長とかいうヤツの言いなりだけど、所長さえいなくなればキョーリョクしてくれると思う!
ボクの“キョウダイ”達全員使えば、ハイネが出発できるくらいの魔力はゲットできるんじゃない?!」
「レムを、……か」
アメリは難しい顔だ。
「なぁ、アメリ。
あのレムリアという男ともしやりあう事になったら……
お前は、覚悟できているか?」
ヒューランの問いに、アメリはぐっと唇を噛む。
彼とて、大事な相棒を斬って間もない。
その瞳は真剣にアメリを見つめてくる。
「……私も、幼い頃からレムには世話になった。
風送りを教えてくれたのも、実はレムなんだ。
本来なら、あれはアクイラの血筋である母上から教わるものだ。
だが……私は母上には教えてもらえなかったのだ」
しん、と沈黙が走る。
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