ハイネの世界では、そろそろ秋が近づいていた。
とはいえ、青の国は年中夏日だ。
今日も今日とて、うだるように暑い1日が過ぎていく。
「あ~~、クソあっちぃ……。
なぁ嬢ちゃん、お前のその天才的な頭脳でキーンと冷えるような大発明でもしてくんねぇ?」
「私に言わせてもらえば、アナタの方がよっぽど暑苦しいですけど!
そんなに暑いのが嫌なら白の国に帰ったらどうですか。
今頃もう雪が降り出してる頃でしょう?」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしつつ、カイヤは氷の入ったコップにコーヒーを注いで客人――グレンに手渡す。
カイヤも自分の冷えたコーヒーに砂糖とミルクを注いで束の間の幸せを楽しむ。
「白の国といえば、もうすぐ“皇子”と“皇女”の誕生祭じゃありませんでした?」
「そ。だからこの時期は祝祭で学校は休みでな。
クーちゃんの間抜け面見るくらいしかやる事ねぇんだよ、グレン先生様はよ」
「ふうん。てっきり数多の女性と遊び歩いてるんだと思ってました」
「俺はあんまり雪国美人が好みじゃねぇだけだ。
それに比べて青の国の女は最高だぜ!
ほどよく日焼けした健康的な体に、どんなプレイでもノリのいい性格に……」
「あぁ、殴りたい。今すぐ。
私が教職じゃなかったらそのサングラスを遠慮なく暴力で叩き割ってましたよ」
忌々しいとばかりにガリッと氷を噛み砕いたところで、脇に置いている世界線観測器が点滅している事に気付く。
「あれ、通信だ。
ハイネさんかな」
「異世界旅行中の教え子か。
いいぜ、出な」
ポチ、とボタンを押すと、久しぶりの声が運ばれてきた。
『カイヤ先生! お久~!
……何日ぶりだっけ?』
「全然連絡ないから心配してたんですよ!
首尾はどうです?」
『まぁ、ぼちぼちかな』
元気そうではあるが、少し疲れが滲む声音をしている。
気遣おうとしたところで、ハイネが話題を変えてくる。
『実はちょっとお願いがあって。
うちの隣にグレンさんおるんやけど』
「俺ェ??」
思わずカイヤの後ろから声が上がる。
『……あれ?
カイヤ先生のとこにもグレンさんおるの?』
「いますよ、残念ながら」
「残念って何だよオイ」
グレンのぼやきを他所にハイネの話を聞いてみる。
何やら今いる世界のグレンに世話をかけたらしく、礼として故郷のクレイズの話を聞かせたいそうだ。
「博士の事を聞きたいんですか?
まぁ……別にいいですけど。
私も聞きたいですし」
『……だってさ。
あ、ちょっと! グレンさん横取りしな……』
ガタガタ音がしたかと思えば、「よぉ」と聞き慣れた声がする。
『お宅がそっちのクーの娘か?』
「そうですよ。血の繋がりはないですが」
『あ? どういうこっちゃ?』
「それはプライベートですので。
……ホントに、こっちのグレンさんそのままっぽいですね」
チラ、とカイヤが後ろを覗き見る。
しかしそこで“自分の声”を聞いているグレンの顔はいつになく無表情だった。
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