(今のは絶対死んだ!!)
そう思ったハイネだが、斬られた痛みはなかった。
砂埃に咳き込みながら顔を上げると、驚いて腰をついたヒューランがハイネの後ろを見上げていた。
大きな影が二人に落ちている。
ハイネも恐る恐る見上げれば、そこには馬に乗った見慣れない男が1人。
「あ?
今確かに、誰かいたんだが」
「……ルベラ、殿?」
ヒューランの呼びかけに、よお、と返ってくる。
「青二才。多少強くなったかと思えば、そこの腰抜け相手に慈悲をかけるとはな」
「教、皇……ッ!!!」
「ブランディア兵、実力主義って噂だったからよ、期待してたんだがな。
あっという間に肉塊だ。
そいつらの頭目じゃあ期待できそうにねぇけど、実際どうなんだ? ん?」
ルベラがヴィオルの剣を自分の切っ先でちょいちょいと突く。
案の定逆上したヴィオルは、刃をルベラに向ける。
「おっと、教皇に剣を向けたな。いい度胸だ。相手してやるよ。
さぞかしお強いんだろうよ。
滾るねぇ。俺は血が沸き立つ戦いが女よりも好きでな」
「言わせておきゃあ……!!」
「いえ。ルベラ聖下。
この始末をつけるのは赤の国。……俺です」
ヒューランの剣がヴィオルの顎に突きつけられる。
「終わりだ。ヴィオル。貴様も、貴様の時代も」
切っ先が素早く翻り、ヴィオルの右腕を肩から切り落とした。
「がっ……!!!」
ドサ、と鈍い音。ばたばたと飛び散る赤い液体。
血の海の中で物体と化した右手から、ヒューランは王家の指輪を抜き取った。
うずくまるヴィオルに背を向け、新たな王は指輪を自らの指に収めた。
「戦いは終わった!!
我々の勝利だ!!
俺は、――俺が、王になる!!」
「「わああああああ!!!」」
大歓声が上がる。
残り少ない生き残りのブランディア兵は、呆然と新たな王が掲げる右手を見つめていた。
「……と、いうわけだ。
大罪を犯した貴様の処遇はあの新しい王次第。
どんな罰が下るか楽しみだなぁ! はっ!」
ブレた視界の中で教皇が笑う。
抜け落ちる血液を抑え込もうともがくヴィオルだが、それを支えてくれる者は誰一人としていなかった。
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