「ヴィ、ヴィオル様……!」
「うっとおしい! なんだ?!」
「碧の国から、軍が……!!
あれは東西両軍の数です!!」
「フン、やっとお出ましか。
あのクソ女の首を持ってこい!!」
「い、いえ、それが……」
ゴクリ、と伝令の兵は喉を鳴らす。
「碧軍全軍を率いているのが……その……
ヒューラン様のようで……」
「はァ?!」
ヴィオルは思わず隣の兵から双眼鏡をひったくる。
覗き込めば、こちらをまっすぐ見据えている1人の青年がいる。
見間違えるはずがない。
この世でも屈指の殺意を抱かせる、妹の残滓だ。
「ふざけやがって……!!
おい、今すぐ碧をブン殴りに……」
「しかし左翼の過半数はアルマツィア軍にやられておりまして……。
碧側に回せる戦力は、出発時の6割ほどの人員となりますが……」
「シッポ巻いて逃げろってか?!
いいや、駄目だ。絶対に撤退しない。
どんな手段を使ってもいい、――ブッ潰せ!!」
負ける。
――どんなに学のないブランディア人でも、一瞬で察した。
ヴィオル以外は、だが。
ブランディア軍がこちらに向かって進軍し始めたのが見える。
ヒューランは頷き、馬上で剣を振りかざした。
「力を貸してくれ、皆!!
行くぞ!! ――突撃ぃ!!」
「「うおおおお!!!」」
雄叫びで地響きがする。
無数の蹄が大地を駆る。
散っていった同胞のため。
未来を自らに託した両親のため。
――ここまで導いてくれた、大事な相棒のため。
今はもう、頼れる兄貴分はいないけれど。
見届けると誓ってくれた少女が、同じ背中の上にいる。
(俺は、帰るんだ)
(彼女を、帰すんだ、――“故郷”に!!)
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