生まれたてのお前は、それはもう小さくて。
こんなんほんまに生きられるんか、と母親に問えば、からりとした笑顔で大笑いした。

『いつか絶対、いい国王になる。私が保証する。
この混沌とした国を再生させる希望の灯だ。
妙な入れ知恵をするんじゃないぞ?』

その時にはもう、心苦しい気持ちを抱いていた。
わざわざ志願した世話係、実際はヴィオルの差し金だなど、言えるわけがなく。



強い方につく。
どんなにムカつく野郎だろうが、強ければついていく。
それが、ワイのモットーやった。生き延びる術だ。
それは子供の頃からずっとそう。
生きづらい奴隷の世界を渡る処世術。

だからワイは、ヴィオルの肩を持った。
無邪気に明るい未来を描く王妹にうんうんと頷きつつ、「まぁ、ないない」と諦めていたというわけだ。

同時に、兄貴が羨ましかった。
兄貴は明確に自分の正義を持っていた。
だから、ワイにハメられてヴィオルの横につけられても、影ではティルバを助けようとしていた。

兄貴、どうしてそんな無茶をする。
そこにいれば安全なのに。

――たぶんワイは、弱い自分の仲間を兄貴に求めていたんだと思う。



なぁ、ヒューラン。
お前はワイを慕ってくれたが、実際のとこ、ワイはそんなに出来た男やない。
でも優しいお前なら、受け入れてくれると思ってしまった。
あまりにも身勝手だろう?
笑ってくれ。



お前に注いだ時間は、ワイの自己満足に過ぎん。
それを聞いてもまだお前は、ワイにその涙を寄越すのか?



「俺にとっては、例え偽りだろうと、お前は大事な家族だった。
出来る事なら、この先もずっと俺を支えて欲しかった。
――でも、お前を止めるにはこの方法しかなかった。
……すまない」

「……いいさ。
ワイを斬れる覚悟があるなら、もうお前は、十分立派だよ……」

――なんて、自惚れかもしれんがな。



「ヒスイ兄ちゃん……」

「ハイネ。巻き込んですまんかったな……。
でも、お前と旅した時間は、久しぶりに楽しかった。
……長旅、気を付けろよ。
他の世界で、ワイに会ったら、一発殴っといてくれや……」

はは、とヒスイは笑う。
その口元から赤い筋が溢れた。

「ヒューラン、後は任せたからな――」

「……あぁ。安心して、眠ってくれ……」

碧落を映した双眸が、ゆっくりと閉じられた。



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