「ねぇ、メノウ。
やっと一緒になれたわね」
する、と細い指が愛しい人の頬を撫でる。
お互いに視界が霞んでいるが、辛うじて焦点を結ぶ。
「……悪かったよ。お前を救い出してやれなくて」
「いいの。もう、いいの。
ほら、来たわ……」
横たわる2人の傍に立ったのはハイネだ。
「私達、もし結ばれていたら……
この子が生まれていたんですって」
「……え?」
「素敵よね。そんな世界も、どこかにあるなんて」
ハイネはゆっくりとしゃがみ込む。
「……ごめんなさいね。
あなたに、親の死を2回も見せてしまう事になるわ……」
「ううん。
『2人』が一緒になれたなら、大丈夫だよ……」
「ふふ、その顔。私にそっくりね。
これで涙を拭いて。
……まぁ、もともとあなたのものだけれど」
アガーテは微かに震える手でハンカチを差し出す。
いつの日か、アガーテに渡したあのハンカチだった。
「それは、私に勇気をくれたの。
全てを捨ててもいいって、だからここまで来れた。
……ありがとう」
受け取ったハンカチには、少し懐かしい香りが染みついていた。
はるか遠い昔に、この香りに包まれていた気がする。
「これでよかったの。
私は今、とても幸せよ。
……貴方は?」
「……あぁ」
ふ、とメノウの顔が緩んだ。
ようやく懐かしい面影を見て、ハイネの瞳から涙が溢れる。
「2人とも……お疲れ様。
……おやすみなさい」
どちらともなく、瞼が下りる。
その手は、互いに固く握りあっていた。
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