包帯で隠されていたヒスイの左目。
初めて露わになったそれは、血のように赤黒く染まっていた。
右手に握られる宝剣は、その瞳に呼応するように、視認できるほど濃い魔力の渦に包まれた。

ヒスイは笑っていた。
壊れたように。

いつもの彼からは程遠い、まるで死神のような表情。
ゆっくりと弧を描いた唇から、鋭い歯の先が覗く。



「あんなの、ヒスイ兄ちゃんじゃ……――」

ハイネは呆然とした。
それは本体を失った鞘を持って立ち尽くすヒューランも同じだった。

「力、の代償……――」



「ははははは!!!!」

笑いながら邪なる者を嬲るように斬りつけるヒスイの姿。
宝剣ブランディアは持ち主の理性を奪う。
半悪魔のヒスイが理性を失えば、あとは殺戮に溺れる獣に成り果てるのみ。



「陛下! 陛下!!
西の方角から軍隊が!!
――赤の国の軍です!!」

倒れていた2人の王は痛む体を必死で支えて起き上がる。

「……ヴィオル軍か……」

「恐らくは……!
地平線を埋め尽くす勢いの大軍です!
しかし西に回せる兵力はもう……!!」

ギ、とコーネルが歯を鳴らす。

「……私が、愚かだったばかりに、こんな事に――」

土を握りしめるジストの、食いしばるような呟き。
背後には邪なる者。前方には全戦力ともいえる赤の国の軍。

――万事休すだ。



「……あ?!
待ってください、北から何か……
あれも軍では?!」

「嘘だろ?! アルマツィア軍か?!」

あまりにも惨い。
思わず体を支えていた腕から力が抜けるが――……

「なんだあれは?!
アルマツィア軍とブランディア軍が衝突しているぞ?!」



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