包帯で隠されていたヒスイの左目。
初めて露わになったそれは、血のように赤黒く染まっていた。
右手に握られる宝剣は、その瞳に呼応するように、視認できるほど濃い魔力の渦に包まれた。
ヒスイは笑っていた。
壊れたように。
いつもの彼からは程遠い、まるで死神のような表情。
ゆっくりと弧を描いた唇から、鋭い歯の先が覗く。
「あんなの、ヒスイ兄ちゃんじゃ……――」
ハイネは呆然とした。
それは本体を失った鞘を持って立ち尽くすヒューランも同じだった。
「力、の代償……――」
「ははははは!!!!」
笑いながら邪なる者を嬲るように斬りつけるヒスイの姿。
宝剣ブランディアは持ち主の理性を奪う。
半悪魔のヒスイが理性を失えば、あとは殺戮に溺れる獣に成り果てるのみ。
「陛下! 陛下!!
西の方角から軍隊が!!
――赤の国の軍です!!」
倒れていた2人の王は痛む体を必死で支えて起き上がる。
「……ヴィオル軍か……」
「恐らくは……!
地平線を埋め尽くす勢いの大軍です!
しかし西に回せる兵力はもう……!!」
ギ、とコーネルが歯を鳴らす。
「……私が、愚かだったばかりに、こんな事に――」
土を握りしめるジストの、食いしばるような呟き。
背後には邪なる者。前方には全戦力ともいえる赤の国の軍。
――万事休すだ。
「……あ?!
待ってください、北から何か……
あれも軍では?!」
「嘘だろ?! アルマツィア軍か?!」
あまりにも惨い。
思わず体を支えていた腕から力が抜けるが――……
「なんだあれは?!
アルマツィア軍とブランディア軍が衝突しているぞ?!」
-273-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved