グランは部屋の隅で震えていた。
幼い彼には現状がよくわからない。
だが家族には強気を見せた反面、『何かが起きようとしている』胸のざわめきに囚われていた。
外で突然、砲撃戦の爆音が響き始める。
『何か』が始まった。
恐怖のあまり、ボロボロの犬のぬいぐるみを抱きしめる。
「こんな幼子がいるというのに、戦線に立つか。
理解しがたい……」
グランはぎょっとして部屋を見回す。
はっと目についた机の上に、男が座っていた。
「……え?
父上…………」
その男は足を組み、じっとグランを見下ろしてくる。
顔立ちはまさに彼の父の通りだが、空虚な灰の瞳は見た事がないほど冷え切っていた。
「子供らしく泣きわめいたらどうだ?
お前の両親は今し方死地へと赴いた。
今から後を追えば間に合う」
「な……?!」
「さもなくば、お前は永遠に親を失う……――」
すう、と男の姿が消えた。
グランはしばし立ち尽くした後、跳ねるように部屋を飛び出した。
「おや、グラン。
ちょうどいいところに――」
アメリの声かけをまるで無視して、その横を走り抜けるグラン。
あまりの速さに、続く言葉を忘却した。
「え、なに?!
グランくんどこ行くの?!」
「お、おい!
外は危険だ!!
私達と共に……」
「父上が、母上が、死んじゃう!!」
遠ざかる小さな背が辛うじて残した言葉の断片がそれだった。
――何か、嫌な予感がする。
気付けば、アメリよりも先にハイネがグランを追いかけていた。
-270-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved