グレンが地道に人間を転送しているのを傍らで見守っていたハイネだが、向こうでヒスイが伝書鳩を飛ばしている事に気付いて声をかける。

「何しとんのよ」

「ん?
あぁ、アレか。
まぁなんだ、昔の女に手紙でもってか?」

「絶対嘘じゃん」

彼が持っていたのは名刺だ。
素早くひったくる。

「お前……手癖悪いな」

「失礼やな!
……なになに……『ラリマー・フリーデ』……ってリマ姉ちゃんやんけ!!
なんでヒスイ兄ちゃんがこの名刺持っとるのよ?!
ま、まさか……」

「お前こそどんだけワイの事ナメとんのや。
仕事の話や、仕事。
お前が黒の国にとっつかまってピーピー泣いてた時にそいつと会ってな。
……いやあ、えぇ女やった……」

「やっぱ下心あんじゃん!!
でもなんでこのタイミングでリマ姉ちゃん?」

「そいつ、夜の女なんやろ?
しかも白の国の傭兵で。
……さて、白の国の王っつったら?」

「ルベラ教皇のこと?
……あ」

惰性で女を貪る男。
そこにヒスイが差し向ける『夜の女』。

「……教皇に何させるんよ……」

「まぁ~見てろって。
……ヒューランにはまだ言うなよ。こんなんで経費落としたらシバかれるわ。
もっとも、あんまり期待はしとらん。
保険ってやつや」



おーい、とグレンがこちらを呼ぶ。

「ようやく半分だ。
ったく、この人数を転送しろだなんてマジで無茶言う嬢ちゃんだよな……。
向こう10年は働きたくねぇ」

「でも魔力ってこの懐中時計から引っ張り出してるんでしょ?
なんでグレンさんがそこまで疲れんのよ」

「空きっ腹に酒樽から直にブチ込むようなもんだぜ? わかるだろ?」

「わからんわ……うちまだお酒飲んだことないし」

「ハイハイどうせ根性なしですよっての!!」

それにしても、と彼は改めて懐中時計を眺める。

「お前こんなもんどこで拾ったんだよ。
まるで悪魔でも従えてる気分だぜ。
どんだけ使おうがどんどん魔力が湧いてくる。
こんなもん他人に渡ったら、それこそ世界が傾くぞ。
ポイッと他人に手渡していいもんじゃねぇ」

「そ。だから貸してあげたのはグレンさんが初めてだよ。
……まぁ勝手に使われた事もあるけど」

「報酬がコレだったら、俺だって喜んで国ごと飛ばしてやるのによ」

「だーめ!
ほら、急いで残りの人達も送ってあげなきゃ……」

ふと、日差しが途切れる。
空を見上げると、いつの間にか分厚い雲が太陽を支配し始めていた。
ピリ、と痺れるような空気が肌に触れる。

「なんだ?
一雨でもくるのか?」

「いや……この感じは……」

「おい、ハイネ!!
“奴”が来たぞ!!」

向こうからヒューランが叫んだ。



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