城では準備を終えたジストとグランが待っていた。
ジストの腰には宝剣が寄り添っている。
「母上、それは……」
「あぁ。ウン年ぶりかで宝物庫から引っ張り出してきた。
これこそが『宝剣ミストルテイン』。かつての緑の国の祖が大地に突き立てた伝説の剣だ。
邪なる者にはこの宝剣が効くと言っていたな?
まぁ、念のためさ」
そう説明する女王から視線を外せば、グランが大きな鞄を背負って辛うじて立っている。
少年の背丈と同じくらいの大荷物だ。
「……グランくん、何持ってくのよ? エラい荷物やけど……」
「生活必需品に決まってるじゃないですか。
着替えに教科書、筆記用具、いつも使っている枕に湯浴み用の石鹸やタオルや……」
「旅行じゃねぇんだから」
思わずヒスイが突っ込むが、アメリはにんまりと笑っている。
「いつもの犬のぬいぐるみは忘れずに持ったのかね?
お前、あのボロボロのぬいぐるみがないと眠れないだろう??
なんなら久々に姉の添い寝が必要かね?!」
「ちょっ……姉上!! 余計な話は今いらないでしょうが!!!」
うっかり脱力してしまいヘラリと笑うハイネ。
そこにやってきたのはグレンだ。
「談笑中すまねぇんだがあんたら本気で助かる気あんのかぁ?
……そろそろ王都民が集まり始めるぞ。
だがとにかく、まずはあんたら王族が先に行っとかないとな。
あぁ、向こうの旦那にはさっきひとっ走り往復して今回の件は言っておいた。
向こうは向こうで騎士団に武装命令を出してるとこだ」
「おぉ、さすがは気が利く男だな。
君の奥方にはちゃんと説明したか?」
「そいつはもう済んだ話だぜ。
さっき旦那のとこ行くついでに連れてったからな! クハハ!」
「……抜け目がないのも相変わらずか。
まぁいい、それで今後の流れは君に任せていいのかね、ハイネ?」
「はっ、はい!
まず女王陛下とグランくんがカレイドヴルフへ行く。
次に王都の皆を順番にカレイドヴルフへ送ります。
移送作業はかなり時間がかかると思うから、もしかしたら途中で邪なる者が着いちゃうかもしれない。
そしたらヒューランを始めとした皆ができるだけ足止めをします。
王都民全員の移送が終わり次第、足止め役もカレイドヴルフへ避難します。
恐らくそうなると邪なる者は次にカレイドヴルフを狙うでしょうし、碧の国の連合軍全員で応戦することになると思います」
「ふむ。わかった。
では我々も向こうへ到着次第、迎撃態勢に入ろう。
……ところで君はどうするのだ?」
「うちはグレンさんと最後までミストルテインに残ります。
この懐中時計が必要なので」
すかさず反応したのがヒューランだが、やんわり片手で制止する。
「うちは大丈夫。
提案した以上、うちは皆が避難し終わるまでちゃんと見てなきゃだし、いざとなったら『異世界』の助けも借りられるんだから!」
「……わかった。そこまで言うなら。
そうだな、俺が邪なる者と戦えばお前を守る事にも繋がる。
お前には傷一つつけさせないつもりで戦う事を誓おう」
「宝剣は使っちゃダメだよ!
あくまでも足止め!
倒すのは碧の国の軍の役目やで!!」
「わっ……わかった」
強めに牽制されて怯むヒューランを見て苦笑する一行。
「なんか母ちゃんに怒られたみたいでウケる」
「う、煩い。
シエテ、お前も人間じゃないからといって手を抜くなよ」
「わかってるよぉ、ぶー」
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