「伝令! 伝令!
ジスト女王陛下より緊急の通達!!
アメリ王女殿下がお話になられる!!
住民は速やかに城門前広場に集まる事ー!!」

ミストルテイン城の兵士達が王都内を駆け巡り、王都民を呼び集める。
なんだなんだとざわつく街。
城の前の噴水広場に、ぞろぞろと住民が集まった。

あらかたの人数が集まったところで、アメリが民の前に立つ。

「皆、集まってくれてありがとう!
緊急事態だ、よく聞いてくれ!
昨晩、赤の国より我が国へ向けて、ある兵器が放たれた!
この兵器はやがてミストルテインを襲うだろう!
我々王家は君達を守る義務があるが、現在ミストルテイン軍はカレイドヴルフへ向けて遠征中だ!
このまま赤の国の軍が押し寄せれば、何千……いや、何万という犠牲を払うことになる!
そこで君達に、女王陛下より避難命令が出た!
速やかに荷物をまとめ、この広場に集まってくれたまえ!
半刻後より召喚術での移送を開始する!
以上!」

「待ってくれ」

アメリの横からヒューランが口をはさむ。
およ?、と首を傾げる彼女を台から下ろし、そこへ彼は立った。

「俺はヒューラン・ダスク・エレミア。赤の国の王妹ティルバの息子だ。
此度は伯父ヴィオルの極めて傍若無人な振る舞い、謝罪してもしきれない。
俺は全面的にミストルテインおよびカレイドヴルフの味方をする。
伯父の毒牙にかからぬよう、微力ながら俺も力添えしたい」

しん、と静まり返る。
今まさにそこまで迫っている脅威の関係者がここにいるのだ。
好意的に迎えられるわけがない。

だが、やがてぽつぽつと拍手が湧き、そしてそれは波のように広がって広場全体を揺らした。

「若造! よく言ったな!」

「俺はあんたを信じるぜー!!」

大歓声に包まれ、ヒューランは面食らったように目を丸くしている。
しかしその表情は少しだけ晴れやかだった。

その様子を、脇で見守るハイネ達。

「くくっ。まさか進んで矢面に立つたぁな。
成長したやないの。なぁ?」

「お兄、カッコよくなりマシタ!
ちょっとパパのコトを思い出しちゃうデス」

「あぁ。ゼノイ様によう似とる。
……多少は報われたかね、王妹夫妻も。
これまで何度あの二人が生きてりゃって思ったもんだが、まぁ……
――大丈夫そうだな、あいつ一人でも」

目を細めて主を見つめるヒスイの横顔。
その耳を、ハイネがぐいぐいと引っ張る。

「ヒューランを王にしたいんやろ?
安心するのはまだまだ先!」

「あだだだ!!
わかったわかった、聞こえとるわアホ!!」

「ねーねー、ボクらも早く避難した方がいいんじゃない?」

暇そうにベンチで足をばたつかせていたシエテが声を上げ、はっとする。

「そうだよ、準備しなきゃ!」

ハイネは懐中時計を開く。
時刻はもうすぐ昼。

手首につけていた黒いリボンを解き、彼女は赤い髪をギュッと縛った。

(トキちゃん。うち頑張るね。
――誰も不幸にさせないんだから!)



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