ジストを動かすことに成功した流れで、ハイネは単独でグレンの元へ行く。
約束通り、彼はハイネが訪れるのを待っていてくれた。
「んで?
偉大な召喚士グレン様にお嬢ちゃんは一体なんの用だってんだ?」
「グレンさんは転移魔法がとっても得意って聞いたんやけど」
「おいおい、どこ情報だ、そりゃ」
「それは……話すと長いんで」
ズズ、とコーヒーを流し込む彼は渋い顔をする。
「確かに、昔はよく使ってたぜぇ。女との約束がバッティングした日とかはな」
この世界でも、彼はやはりクズだった。
「だが身を固めてからはほとんど使ってねぇよ。
そもそも使う機会もない。
職場はここだし、住んでる屋敷はすぐそこ。
この距離に転移魔法を使うほど自堕落じゃねえつもりだぜ。
正門から堂々と入れない何かをやらかした時には考えるけどな」
「今すぐカレイドヴルフ城に行きたいって言ったら、転移魔法は使える?」
「あぁ?
すぐ隣だろ。なんで俺が魔力叩いてやらにゃならない」
「それくらい緊急事態ってこと!
……もうすぐ、赤の国の軍がミストルテインに攻めてくる。
ジスト女王とグラン君を逃がしたいんよ。
この王都にだって大勢いるし……」
「お嬢ちゃんアレか。つまり俺の転移魔法でミストルテインの連中を全員カレイドヴルフに連れてけって」
「そ、それはまぁ……無茶だろうけど、ほんま出来るならそうして欲しい」
飲み干したカップをテーブルに置き、グレンはソファに深く体を沈める。
「やなこった。
普通に死ぬじゃねぇか。アホかよ」
「やっぱり、さすがのグレンさんでも無理か……」
「当たり前だろ。
俺はどっかの誰かみたいに半分が悪魔とかいうご立派な種族じゃねぇ。
ただの人間だぞ」
「……『半悪魔』なら、できるの?」
「さぁ。そいつが俺くらいの召喚術使いなら、隣くらいには行けるんじゃねぇの」
ハイネはしばらく考え込み、懐を漁る。
引っ張り出したのは懐中時計だ。
グレンは思わず起き上がった。
「は?!
そいつはクーちゃんの……」
「やっぱり。グレンさん、ここでもクレイズ先生と知り合いだ」
「……嬢ちゃん、何者だ……?」
しっ、と牽制する。
そうしてから、ハイネは小声で説明した。
「この懐中時計には『半悪魔』さんの魔力回路がくっついとるんや。
グレンさん、これ貸すから、うちがさっき言った通り、ミストルテインの人達を全員移動させられない?」
グレンは唸る。
ハイネが持つ懐中時計を恐る恐る摘まんで眺める彼は呟く。
「……なぁ、嬢ちゃん。
お前はクーが死んだ理由を知ってるのか?」
「うん」
「そうか。
……クーか。懐かしいな。嫌味な奴だったけどよ、俺にとっちゃ唯一の“ダチ”だったんだよな。
学生の頃の話だけどよ」
グレンとクレイズは、友人だった。
(……だから、うちの世界のグレンさんは、よくカイヤ先生のところに来てたんかな。
お見舞い……してたんか)
ふう、とグレンは一息吐く。
「……わーったよ。協力してやる。
その代わり、何か見返りがないとなぁ。
生意気にも大人と交渉するってんだから、それなりの手札はあるんだろうな?」
「そうやなぁ……。
じゃあ“こっちの”カイヤ先生とお話してみる?」
「は? 何だそりゃ」
「クレイズ先生のこと、ちょっと聞けるかもよ」
あまり腑に落ちていない風のグレンだが、ひとまず彼の協力は勝ち取ることができたのだった。
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