「おお、久しいな、諸君。
どうだ、アメリは迷惑をかけていないか?」

「母上!
それは言わない約束ですっ!」

会議室でジストを始めとした全員が顔を突き合わせる。
以前は彼女の傍らにはレムリアがいたが、今は不在のようだ。

「して、揃いも揃って一体何用だと言うのかね?」

慌てて説明しようとしたハイネを止め、ヒューランが冷静に口を開く。

「単刀直入に申し上げたい。
……ダークエルフの里は滅びました。
貴国から譲られた物資もろとも」

紅茶をすすろうとしていた女王の手が止まる。

「やはりヴィオルに知られたか」

「恐らくは。
……やはり、と申しますと?」

「物資を運んだ連中が、不審な男を見たらしいのだ。
何でも、その身なりは赤の国の者でも碧の国の者でもない、若い男だったと」

「不審な男……?」

「それが、その……
これは私が勝手に砂漠の蜃気楼だと言い訳したいのだが」

――あまりにもコーネルによく似た風貌だったという。

「……なんやそれ。お宅の旦那が直々に漏らしたって?」

「まさか。
もちろん本人にも確認をとっているさ。
それはもう、こっぴどく叱られたが」

既に怒られた後だったか。
ハイネは頬を攣らせる。

「それで、母上……。
父上はこの件をなんと?」

「ミストルテイン軍の所有権をしばらく預かると。
だから、今のミストルテインには必要最低限の見張り兵しかいない。
まったく参ったものだ。自軍も動かせぬ者の何が女王か。
そこまで怒らずともいいと思わないか、諸君?!」

とほほ、とジストは肩を竦めて茶を一口。
途端にハイネは青ざめた。

今のジストは丸腰同然である。
こんなところでヴィオル軍の襲撃など受けたら太刀打ちできない。

(そら死ぬわ!!)

――納得の瞬間であった。

「んで、女王さんよ。
これからこのチビっこいのが事情説明するから、真摯に受け止めてくれんか」

「チビ言うな!」

思わず反射的にそう言ってから、ハイネはハッと姿勢を正した。
ジストがハイネに目を向ける。

「君が?」

「は、はい。
えっと、まず要点から……。
女王陛下、あなたは今とっても危険です。
だから今すぐにでもカレイドヴルフに逃げて欲しいんです!!」

「私が? 危険?」

まさか、と冗談めいてジストは笑う。

「強いて言えば、またも邪なる者とやらが湧いて出たりしたら大ピンチというやつかもしれんが……」

「まさにソレです!
でっかい邪なる者が! このミストルテインに向かってるんですっ!!」

ぴた、とジストの動きが止まる。

「それで、騎士団もおらんミストルテインにそんなもんが来てもうたら!」

「……大ピンチだな」

「だから!
せめて女王陛下とグラン君だけでもカレイドヴルフに逃げて欲しいんです!
せやないと、女王陛下が死んでまう……っ」

「ほう。まさか私の身を案じてくれるとはな」

ぽい、とジストは角砂糖を茶に放り込む。
ぐるぐるとかき混ぜる間沈黙が流れた。
ゴクリ、とハイネは喉を鳴らす。

とっぷりと甘くなった茶を流し込んだジストは、やれやれと溜息を一つ。

「……わかった。コーネルのところに行けばいいのだな?
確かに、私はまだ死んでいられるほど余裕がない。
だが奴のところに“逃げろ”というのが納得いかないな!」

えぇ?、とハイネは脱力する。
しかしジストはニシシと笑うのだった。

「騎士団を返せと直談判しに行こう。
その体であれば行ってやっても構わない。
……よし、ではすぐにでも発つ準備をしよう!
アメリ、グランを呼んできてくれ」

(あぁ、よかった――……)

ハイネは足の力が抜けてしまった。



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