馬を止め、火を熾す。
幸い追っ手はいない。どこまでもだだっ広い砂漠の真ん中だ。
そんな星空の下、火を囲んで腰を下ろした。
そしてハイネは知りうる情報を洗いざらい話す。
――そう。すべてを話したのだ。
ヒューランの死の予兆も、ハイネがヒスイを疑っていたことも。
「お兄、死んじゃう……デスか?」
イザナが泣きそうな顔で呟いた。
ぎゅっと兄の腕を抱きしめた妹姫は眉を八の字に歪める。
「ハイネ、お前、その話は……」
「うん。もう平気。本人と腹割って話した」
ヒューランはヒスイに目をやる。
その顔は、年相応にどこか不安げで。
だがヒスイは笑って見せたのだった。
「なんや、殿下。いつの間に聞いとったんや?
こら参ったな。バレてもうた!
……ってのはさておき、だ。
少なくとも、ワイがお前を裏切って殺す~なんてことはせぇへんから安心しとき。
それもえぇな思ったこともあったけどな。
よう寝とった朝に蹴り起された日なんかはな。がっはっは!!」
「まったく……。
日頃の行いだ、大男め。
私は二重三重にヒヤヒヤしていた身だぞ。
未来の夫が死ぬか、はたまた純朴な少女が闇に葬られてしまうのかと……」
「で?
ヒューランが死にそうってのはまだ現在進行形ってやつなんでしょ?」
焚火に枝をつつき入れていたシエテが口をはさむ。
これにはハイネはゆっくりと頷いた。
「そう。だからそれを回避するために、すぐにミストルテインに行きたいんよ」
「ミストルテインに?
母上に助けを乞うのか?」
「逆。ジスト女王を“逃がす”んよ」
「……母上を?」
なぜ?と一同が首を傾げる。
「これを言うのも何だけど。
ヒューランが死んじゃう前に、ジスト女王が死んじゃうかもしれないって話があって」
「母上が?!」
思わずアメリは身を乗り出す。
落ち着け、とヒューランに腕を引っ張られ、ゆるゆるとまた腰を下ろす。
「たぶんうちが知っとる未来は、ヴィオル軍とミストルテインが戦うことになった末の結果やと思う。
んで、その戦いでたぶんジスト女王は死んじゃう。
せやから、先にジスト女王をコーネル王のところに逃がすんよ。もちろんグラン君も一緒にな。
ミストルテイン軍だけやと、ヴィオル軍に勝てない。
でもカレイドヴルフ軍も一緒なら、勝てるんやないかなって。
……アメリ、どう?」
「うむ……。
確かに、戦力で言えば、父上が持つ軍の方が母上の軍よりずっと強い。
元々旧緑の国は、旧青の国の戦力の傘下に入りたくて連合国になったのだ。
碧の国の軍、という名目で見れば、事実上世界最強だ。
……なのだが」
「だが?」
ううん、とアメリは顔をしかめる。
「母上が我々の言う通り動くだろうか?
なんせ父上に黙って和平派の手助けをしたのだ。
自分で蒔いた種で、ピンチになったら父上に頼るなど、母上がするようには思えない……」
「えぇ? アメリの父ちゃんと母ちゃんなんでしょ?
家族って助け合うもんじゃないの?
ボクその辺よくわかんないけどサ」
「……何というか、うまく説明できないが……
父上が“めっちゃ怒る”。
母上は“怒られたくない”」
「子供か」
思わずヒスイが漏らした言葉に、アメリは苦笑いである。
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